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「今日は晩まで絶対部屋に入るなよ?」
天使と悪魔に何度もそう念を押した。今日は由鶴の友達、昇一が家に来るのだ。遊びに来るのではなく勉強をしに。
万が一、天使と悪魔が勉強ができるなんて知られたら少し危なくて面倒くさいような気がした。だから2人を部屋から追い出した。色々と文句を言われたが気にしない。
「前に来たのは春休みだから、半年振りか。知らない間に小さいのが2人増えてたから驚いたぜ」
「それはいいからさっさと始めるぞ」
座卓の上に教科書やノート、問題集、プリントを広げて勉強をし始めた。
一方の天使と悪魔は、
「よし、次はワシの番じゃ」
「……う……ボク、負けそ、う」
「いや、まだわかんないよ」
千鶴も一緒に3人で楽しく遊んでいた。

「……あー、詰まった! ゆづ、これわかる?」
昼を挟んで1時間後、順調に問題を解いていた昇一の手が止まった。
「それはこうだろ」
「さすがゆづ! じゃあこれは?」
「ん? これ?」
問題とにらめっこをするが、
「……しょう、僕もわからない」
由鶴も解けなかった。2人が悩んでいると、バタバタと走る音が聞こえて部屋のドアが勢いよく開いた。
「ゆづ、暇ー!」
入ってきたのはもちろん天使と悪魔。
「おまえら……入ってくるなって言っただろうが」
「……あ、勉強して、る」
座卓の上に広がっている勉強道具に目がいった悪魔は、呆れている由鶴を無視して傍まで行き、由鶴たちが解けないでいる問題を見た。
「……こう」
「へ?」
由鶴のシャーペンを使ってさらさらと答えを書いてみせる。まさかと思って見てみればやっぱり答えは合っていて、由鶴はまた少し悔しい思いをした。悪魔はえっへんと、威張ったポーズをしている。
「すごいな、おまえ! えーと……名前何だっけ?」
「……あ、じゃなく、て、クロ」
悪魔は思わず悪魔と言ってしまいそうだった。本当はそうなのだが。
「こんなに小さいのにこれ解けるんだ? ゆづ、スパルタ教育でもしてんの?」
「するわけないだろ」
「えーと、シロだっけ? シロも解けるの?」
「当然じゃ」
そうだ。しょうは単純というか何というか、こういう奴だった。
「本当にすごいな!」
今回も由鶴の心配はいらなかったようで、すっかり仲良くなっていた。

あっという間に夕方になり、昇一が帰る時間になった。
「前より賑やかになったな、ここ」
「うるさいくらいだけどな」
2人で笑った。
「でもさぁ、いつかは帰るんだろ? シロもクロも」
寂しくなるな、なんて昇一は続ける。
いつかは帰る、か。
そりゃ、ここはあいつらの家じゃないし、そもそも人間じゃなくて天使と悪魔だ。
あれ? でもあの2人っていつ帰るんだっけ?
「……また、あそ、ぼ」
「いつでも来ていいからな!」
「そうだな、近いうちにな」
「おい、お前らの家じゃないだろ」
天使の言葉にすかさず突っ込みを入れる。おかげで考えていたことが飛んでいってしまった。うん、まあいいや。

約束した通り、昇一は早くも次の週末にまた遊びに来た。
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「ゆづー、起きろー!」
という天使の声で目を覚ました由鶴。時計を見るとまだ6時。せっかくの日曜日なのだからもう少し寝ていたい。
「……自転車、れん、しゅう」
こんなに早くからするのか、おまえらは。
「10時からじゃないと行かないぞ」
すると天使と悪魔からの大ブーイング。それを耳元でされるのだから堪ったものではない。仕方なく起きることにした。

「うー……昨日ほど進まんぞ……」
今はもうすぐ12時になろうという時間。あれから10に家を出るまで、まだかまだかとうるさかった。
「慌てない慌てない」
「昼からもできるからな」
「……とりあえ、ず、昼、ご飯」
弁当を持ってきたので河原で昼食。たまにはこういうところで弁当を食べるのもいいかもしれない。
天使は早く練習したいのか、そわそわして落ち着きがない。でもご飯はちゃんと食べている。
「昨日ほどっていっても、あと30cmくらいだろ? たいして変わらないと思うけど」
「けど30cm短いんじゃ!」
「じゃあその30cm、頑張ろうか」
「……ふぁい、と」
食べ終わって練習が再開された。
持って放してが繰り返される。一気にとはいかないが、少しずつは長く乗れるようになってきている。今日中には乗れるようになるはずだ。
「……てんちゃん、もうちょっと!」
「……おお?」
「わあ……!」
気が付けば、昨日の3倍ほどの距離を進んでいた。
「乗れた……乗れたぞ、ゆづ!」
「ああ、やったな!」
天使と悪魔は抱き合って喜んでいた。

あのあと、右や左に曲がる練習もクリアした。自転車に乗るコツを覚えたのか、こっちはあまり苦戦しなかったようで、できるまでにそれほど時間をとらなかった。
そして次の週末は、
「ゆづ、今度は一輪車じゃ!」
「……教え、て」
思わず飲んでいるココアを吹き出すところだった。
「……ゆづ、自転車」
「自転車?」
聞き返したあとにいつもと違うところに気付いた。
「あれ? 天使は?」
悪魔と一緒にいるはずの天使がいない。辺りを見てみると、少し開いているドアの影に隠れていた。
出てくればいいのに出てこない。不思議に思った由鶴は悪魔に聞いてみた。すると悪魔は幼稚園であったことを話始めた。

幼稚園に自転車がある。前から置いてあった自転車に急に興味が湧いた2人は、友達から乗り方を教えてもらった。数が少ないので悪魔、天使の順で乗ることに。

「ボク、乗れた。……でも、てんちゃん乗れな、かった」
なるほど。それで昨日の晩は妙に静かだったのか。
「あー、でも自転車あったかなぁ……」

「あるわよ、自転車」
何でこんなに物持ちがいいんだこの家は。
母さんが言ったとおり、倉庫の奥にあった自転車を引っ張り出して、今河原に来ている。千鶴も一緒に来た。
「とりあえず後ろ掴んでるからこいでみな」
「……てんちゃん、ふぁい、と!」
軽快に、とは言えないが走り出した。ヨロヨロしながらこいでいたのが大分良くなったので手を放してみたら、見事に横に倒れた。
「う……痛い。だから放すなと言ったではないか!」
膝を擦りむいたがまだ頑張るようだ。千鶴にばんそうこうをはってもらい、自転車に乗った。次から放すときは前もって言っておこう。

30分ほど練習をしたら10m走られるようになった。周りが少し暗くなってきたので今日はこれで止めることにした。
「あと少しだな」
「……てんちゃん、がんば、った」
まだ自転車に乗られないことが悔しいのかしょぼんとしている。「また明日頑張ればいいじゃないか。それに千鶴は小学2年生まで乗れなかったんだし」
由鶴が意地悪そうに千鶴に言うと頬を赤くして膨らませた。
「そうだったのか……」
「た、たしかにそうだったけど、今はもう乗れるもん!」
兄に文句を言ったあと、天使のほうを向いて、
「だからさ、シロちゃんも乗れるようになるよ、きっと」
ね。笑顔でそう言うと天使に明るさが戻った。
「うむ!」
「……ゆづ」
「お月見ー!」
「ん? あぁ、明日か」
今日、幼稚園で月見団子が出たらしい。月見関連の掲示物もたくさんあるんだろう。
「ところでゆづ、ウサギはどこじゃ?」
「は?」
いきなりウサギはどこだと言われて呆然とした。ウサギを飼っていないのだからこの家にいるはずがない。
わけがわからないといった顔で天使を見ていると、悪魔が言葉を付け足した。
「……月の、もちつきウサ、ギ」
「びっくりした。本物のウサギのことかと思った……」
天使が言うウサギは月に写っているウサギのことだった。2人はウサギに見えないみたいだ。
月の写真が載っている本を手にとって2人に見えるように開く。そして説明する。
「これが耳でこれが顔、あとこれが体だ。な? ウサギに見えるだろ?」
説明をしたら見えるようになったようで。
「……ウサ、ギ」
「不思議じゃの……」
しばらくウサギがいるように見える月の写真を眺めていた。
「ゆづ兄ちゃん、明日晴れるようにてるてる坊主作ろうよ」
千鶴が部屋に入ってきて提案した。晴れた空で満月を見たい由鶴が、そうだなと言いかけたが、てるてる坊主という言葉に反応した天使と悪魔が作る! と言うほうが早かった。
「1人ひとつだぞー」
「はーい」

夜から翌日の月見が終わるまで由鶴の部屋の窓に4つのてるてる坊主がぶら下がった。
その晩と次の晩、天使と悪魔はウサギと、何故かてるてる坊主と月でもちつきをした夢を見たとか見なかったとか。
「ん? どうしたんだ? それ」
学校の昼休み、昼食をとっていた由鶴は一緒に食べている友達の小さい包みが気になった。
「ああ、これ持っていって友達と食えって言われてさぁ」
友達が包みを開けると容器に入ったりんごが見えた。
「よかったら食って」
おまえ、いつもパンだけだろともう1人の友達をからかっている。
りんご、かぁ……。
帰ってから母さんに提案したら、いいわねぇといういつもの返事が返ってきた。

「というわけで、りんご狩りに行くぞ」
天使と悪魔は起きたばかりで眠そうにしている。ボーッとしていたのでもう一度同じことを言えば、やっと反応が返ってきた。
「りんご狩りとは何じゃ?」
どういうものか説明をすると、さっきまで眠そうだった目が急にパッチリと開いた。
「……楽しそ、う!」

「うわぁ! たくさん木があるのう!」
車を降りた途端、木がたくさんあるのを見て驚いていた。中に入ると紙の包みを指してこれは何かと聞いてきた。
「この中にりんごが入ってるんだ」
ためしに1つもいでりんごを見せたら自分たちもやりたいと言い出した。
「……とれ、た!」
「ワシもとれた!」
「擦ってそのまま食べてもいいんだよ」
千鶴が食べると同じように、真似をして食べた。おいしいでしょと聞けば、おいしいと返ってくる。
「こういうのもいいだろ?」
「うん!」
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家族に言わせれば『しゃべりだすとおもしろい』らしい
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