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 少女、八森紗和は大人である。

 もう一度言おう。『少女』、八森紗和は『大人』である。

 あからさまに矛盾しているその言葉は、何も言い間違えたわけでもなければ、「我には古よりの記憶が……」などといった中二病を患っているわけでもない。八森紗和は間違いなく、そして他の誰でもなく『八森紗和』本人であり、その事実は揺るぎないものだ。

 記憶の話をするのであれば、『未来である過去』の情報を彼女は持っている。それは彼女自身が実体験したもので、他所から彼女に植え付けられたものではなかった。

 いつ、どこで、誰のもとに生まれたのか。自分の家族構成。通う幼稚園、小学校。友達、先輩、後輩、先生の名前。大きな病気や怪我のタイミング。

 生まれてこの方、記憶と大きく差異なく過ごしている。これから起きることも、記憶の続く限りで同じであるに違いない。

 つまり、彼女は記憶をそのままに自らの過去に戻ってしまったのだ。

 そう。少女、八森紗和は大人だった。

 彼女がたしかに『八森紗和』という人生を歩んでいる最中のある一点から、どういうわけかその生まれた始点にて目を覚ました。ふわふわとしたはっきりしない意識のまま時が進み、彼女が完全に覚醒したのは母親の顔を見たときだった。当時のその感覚は非常に気持ち悪いものであった、と彼女は振り返る。幸いと捉えるべきか、彼女の意思と関係なく体は勝手に動き、声も勝手に口から出た。さながら自分の記憶の追体験をしているようだ。便利なもので、基本的に彼女は行動を『八森紗和』に委ねていた。

 このまま何事にも無関心でいれば、後に起こるつらく苦しいことも以前ほど感情を揺さぶられずにいられるのだろう。潰れることはないだろう。『動き』始めるのはまだずっと先でいい。紗和はそう思っていた。

 しかし、中学に入学してその考えを改めざるを得ない事態が起きる。

「足上進です。みなさんは小学校の頃から一緒ということなので、早くクラスに馴染みたいと思っています。よろしくお願いします」

 にこやかに自己紹介をするその少年を、紗和はじっと見つめていた――。

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