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天使と悪魔は節分の日以来元気が戻った。沈んでいたのが嘘だったかのようだ。
「ゆづー!」
遊べと言いながら上着やら手袋をしている、外に出る気満々な天使と悪魔が抱きついてきた。2人で、それも走ってきたので座っていた由鶴は危うく潰れかけた。ドアの方を見れば千鶴が笑っている。一緒に来たのだろう。
あれから変わったことといえば、天使と悪魔は常に母さんか千鶴か由鶴の誰かにくっつくようになった。今も由鶴の部屋に千鶴と一緒に来た。やっぱり寂しいのは変わらないらしい。
「ゆづ、雪合戦しよう!」
「寒いからやらない」
断ると頬をぷうっと膨らませて怒る。
「……ゆづ、いじわ、る」
「部屋にこもっても面白くないではないか」
天使と悪魔が由鶴を誘うのに苦戦しているとドアの近くにいる千鶴が誰かに手招きをした。何をしているんだと由鶴が不思議がっていると、ようっと挨拶が聞こえた。出てきたのは昇一だった。
「……最悪」
「こんなこともあろうかと昨日誘ってみました」
「僕聞いてないよ」
「だって言ってないもん」
すごいと千鶴を褒める天使と悪魔。出ないと言っても絶対昇一に連れ出されると諦めた由鶴はみんなと外に出た。

「よし、頑張るぞ、あーちゃん!」
「……おー!」
天使と悪魔、昇一と由鶴の2組に分かれた。千鶴は見学。ちなみに場所は家の庭だ。
「冷たっ!」
由鶴の頭に2つ雪玉が当たった。もちろん当てたのは天使と悪魔。
「わーい、当たった!」
「……さす、が、てんちゃん」
「おー、やるなぁ」
逃げていた昇一と由鶴が今度は反撃といわんばかりに雪玉を投げた。

はじめは乗り気ではなかった由鶴も最後には一緒になって楽しんでいた。
終わった頃には、見ているだけだった千鶴以外の4人は雪まみれになっていた。
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あのあと、フーとムーが再度やって来てこっちにいていいのは3月末までと告げた。
残り3ヶ月というのは決して長くはない時間で、それからというもの、天使と悪魔の2人は沈んだまま日々を過ごした。元気のない2人を心配して母さんと千鶴が声をかけるが首を振ることしかしない。天使と悪魔が騒がない家の中は気味が悪いほどにとてもしんとしていた。
そしてあっという間に2月になった。
「はあ……自分の家なのになんか重苦しいね」
「まあな……」
天使と悪魔は由鶴の部屋。由鶴はリビングで千鶴と話していた。
「ねえ、何があったの?」
「……知らない」
「えー? 絶対ゆづ兄ちゃん知ってるでしょー!」
「だから知らないって」
本当は知っているがどう説明しろと言うのだろうか。『3月にここを出ていく』と言えばいいのだろうか。
「あーあ、嫌なものばっかり溜まってるみたい」
ぶつぶつと文句を言っていた千鶴がカレンダーを見て、あ! と叫んだ。近くにいた由鶴はうるさいというような顔をして、何だと聞くと指を指して、カレンダーを見てと言った。
「今日節分だった! 豆まきってシロちゃんもクロちゃんも喜びそうだと思わない? ゆづ兄ちゃんが鬼役でみんなで豆まきしようよ!」
台所にいる母さんに同意を求めると、
「いいわね」
と言い、由鶴も天使たちが元気になるならと賛成した。

ドアを開けて天使と悪魔を呼んだ。しかし反応がないので持っていた豆を頭目掛けて投げてみる。するとやっとこっちを向いた。
「……何で鬼の面など……」
「今日が節分だから。下で豆まきしないか?」
顔に当てていた面を除ける。そしてもう一度天使と悪魔の近くに豆を撒いた。
「……そういう気分、ない」
誘うのに失敗したが由鶴はここで諦めなかった。ふうっと息を吐いて先ほど顔に当てていた面で2人の頭を叩いた。紙でできているので痛くはないが、突然叩かれたことに驚いている。
「あのな、帰って寂しい思いするのはおまえらだけじゃないの。千鶴や母さんだって寂しいって思うんだ」
考えたんだ、天使と悪魔が帰るから何をすればいいのかって。天使と悪魔が寂しくて沈むのはわからなくはないが、だからといってずっと沈んでいるのはいいことではないと思う。2人にとっても僕たちにとっても。
じゃあ何をすればいいのか。
「とりあえず楽しんどけ。もったいないだろ、な?」
話を静かに聞いていた天使と悪魔の口がゆっくりと開いた。
「……ゆづも寂しいと思うのか?」
「もちろん」
「……だか、ら、楽しむの、たい、せつ」
「そういうこと」
だんだん明るい顔になっていく天使と悪魔にもう一度聞いた。
「豆まきするか?」
「するー!」
天使と悪魔はバタバタと慌ただしく階段を下りていった。由鶴も下りると千鶴が、
「さすがゆづ兄ちゃん」
と言ってハイタッチをした。
クローゼットの奥に手を伸ばしてみると指に硬い何かが当たった。
「これ?」
取り出して見せると、至極驚いた顔をした。
「これじゃ!」
「……びっく、り」
わーいと由鶴に抱きついて天使と悪魔が喜ぶ。フーとムーは安心しため息を吐いた。見つけた輪と角、羽をつけた天使と悪魔は少しだけそれらしく見えた。
「それにしても、何でこんなところに……」
「まあまあ。見つかったからいいんじゃよ」
「……もしか、して」
悪魔が何かに気付いたように、ここにあったからゆづのとこに落ちたのかもと言った。それにはみんな納得で、灯台もと暗しと言うしのと天使が頷きながら続けた。
しかし喜びに浸っているのも束の間だった。
「さて、と。輪と角も見つかったし」
「帰りましょうか」
その言葉に天使と悪魔は無言で固まり、由鶴だけが、え? と声を洩らした。すぐあとに由鶴も理解した。

落としものを見つけることが目的でここに来た。天使と悪魔の2人はこっちの者ではない。だから目的を果たしたら2人が自分たちのいたところに帰る。当たり前なことだ。
当たり前なことなのだが……。
「どうされたのですか?」
動かない天使と悪魔が気になったフーが訪ねる。
「まさか帰りたくないなんて言わねえよな?」
ムーの問いに2人はきっぱりと答えた。
「帰りたくない!」
「ばかやろー!」
天使と悪魔の頭をムーが叩いた。けれど今度は泣かない。フーは冷や汗がだらだら流れている。
「お2人とも、わがままを言われると困ります!」
「いいか、おまえらは人間じゃねえんだぞ? いくら輪と角と羽を外して人間の子供に見えたって天使と悪魔なんだ! こっちに居着いていいわけがねえだろうが!」
ムーの言うことは尤もだと由鶴は思う。天使と悪魔もそれはわかっている。しかしこっちに馴染んでしまうほどに天使と悪魔は長く居すぎた。
テコでも動かないというような天使と悪魔を見てため息を1つ吐くと、
「とりあえず今日はオレたちだけ帰って見つかったことを報告する。おまえらは次に来るまでここにいろ」
と言って帰っていった。
部屋にムーの怒鳴り声が響く。
「……おい、おまえら。もう1回聞くぞ。何のためにこっちに来たんだ?」
ムーが怒っているのに天使と悪魔の態度は変わらない。小首を傾げてまた言った。
「……さあ?」
「ばっかやろー!」
2度目のムーの怒鳴り声は1度目よりも大きかった。フーは悪魔の答えを聞いたあとからずっと固まったままだ。それなのに2人はやっぱり態度を変えずにいる。知らないものは知らないという堂々とした顔で。
「おまえらはこっちに遊びに来たんじゃないんだぞ! おまえらが羽とかうっかり落っことしてそれを探しに来たんだろうが!」
ムーの言葉に天使と悪魔、由鶴の3人は、あっと声が出た。
「しまった、すっかり忘れておった!」
「……いつ、から忘れてた、っけ?」
今更気付いた天使と悪魔は、うーん、と唸っている。これは2人なりの反省のようだ。
「早く輪と角を探さねばな!」
「……そうだ、ね」
それを聞いたフーとムーが反応した。
「……もしかしてあれから輪も角も見つかっていらっしゃらないのですか?」
「うん」
正直に答えた天使と悪魔はムーからげんこつをもらった。相当痛いらしく頭を押さえてうずくまっている。ムーが呆れてため息を吐いた。
「おまえらいい加減にしろよ……」
「このことが女神様に知られたら……」
フーとムーは想像して震えだした。女神様がとても怖いということだけはわかった。
4人がうずくまったり震えたりしているのを見ながら、由鶴は由鶴で唸っていた。天使たちみたいに反省しているわけじゃないが、さっきの会話で出てきた言葉が頭に引っかかっているからだ。
輪と角……なんかすごく最近それっぽいものを見たような気が……。
輪と角、輪と角、輪と……ん?
あれ? え? まさか!
「あーっ!」
今度は由鶴の声が部屋に響いた。その声に驚いて4人が由鶴のほうを向いた。
「何じゃ、ゆづ……」
「僕、知ってるかも」
「……だから何、を?」
「輪と角」
みんなが目を丸くした。
年が明けた。母さんと千鶴は新年早々買い物に行っている。福袋を買うらしい。例によって由鶴は天使と悪魔のお守りである。昼にはあらかじめ作ってあった雑煮を食べた。家で正月気分を味わっていた3人に客が訪れた。
由鶴の部屋で寛いでいると窓に何かがぶつかった音が聞こえる。窓に視線をやるとなんだか見覚えのある小さい物体もとい生き物が見えた。
「フー!」
「……なん、で?」
覚えているだろうか。すごく前に出てきたこの小さい生き物を。天使と悪魔の羽を持ってきたやつだ。
早く部屋に入れろと言わんばかりにムーが窓を叩いてくるので部屋に入れた。
「あけましておめでとう」
「おめでとうございます。お元気そうで何よりです」
久しぶりに会ったから楽しく談笑をしたいのはわかるが、フーとムーは何をしに来たんだろうか。単に談笑をするためだけなのだろうか。
気になったので聞いてみるとフーとムーは一瞬固まった。どうやら談笑をしに来たわけではないが、話しているうちに用件を忘れてしまっていたらしい。ムーがコホンと咳払いをして話始める。
「あー……おまえらまだ全部揃ってないのか?」
「そろそろ帰っていただかないと、わたくしたち過労で倒れてしまいます。天使様たちがこっちに来てからというもの女神様の人使いが更に荒くなってしまいまして……」
女神様って人使いが荒いんだ……。ここで談笑をしたくなるのもわかるかもしれない。
でも……あれ? 揃う?
「……揃うって」
「……なに、が?」
フーとムーの言葉に首をかしげた天使と悪魔は由鶴が思っていたことと同じことを聞いた。
するとフーとムーの顔色が変わる。
「ま、まさか忘れたとか言いませんよね?」
「だから何をじゃ?」
もう少しで何か思い出しそうなんだが、まだ出てこない。
「おまえら……こっちに来た目的を言ってみろ」
フーは汗がダラダラと流れてムーは笑顔がひきつっている。
「……あ、れ? なん、だっけ?」
悪魔の言葉が止めとなり、ついにムーの抑えていた怒りが頂点に達してしまった。
「……ばっかやろー!」
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