忍者ブログ
[1]  [2]  [3]  [4]  [5]  [6]  [7]  [8]  [9
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

<花>

 小山くんって、実はけっこうモテるのでは?
 と、気付いたのはつい最近で。クラスの女の子、というよりは部活仲間の女の子からそういえばそんな話をよく聞く。
「花のクラスに転校してきた男子、かっこいいよねえ」
 同じクラスの友達が、でも割と冷たいよと言っても、それはそれでありと答える女の子が大多数。彼女たちの中では『クール』だと置き換えられるらしい。うん、あたしも別に冷たいわけじゃないと思うなあ。
 なんでも、そのクールさも小山くんの外見があってこそらしい。体型は、たしかにすらっとしているけど、とはいえ少し細過ぎな気もするような。あとは顔かな。顔なのかな。告白もどきされたときにドキッとはした。……うーん、でもあたしにはよくわかんないや。
 と言えば、
「あー、花はねー、そうだよねー……うん、しょうがない」
 苦笑いされた。
「花ってどうやって小山くんと仲良くなったの?」
「どうやってと言われても」
 ただ話しかけただけなんだけどなあ。
 修くんが一緒にいたことは大きいけど、やっぱり自分から話しかけて少しずつ仲良くなっていくしかないのではないだろうか。思えば最初の雑な当たりから見事なコミュニケーションの進化を遂げたよ。口数がそんなに多くないのは相変わらずでも一緒にいることは増えたし、小山くんと番号交換できたし、小山くんのバイト先も発覚したし。今度修くんたちとお店へ食べに行こうっと。
 小山くんを好きな女の子たちから、いいなあ、いいなあと羨ましがられる。小山くんの話になるとだいたいこんな感じ。だから羨ましいならみんなも話しかければいいのに。最初の頃に比べると、断然話しかける難易度は下がっているはずだ。
 それにしても、もどきとはいえ、こんなに女の子から好かれる小山くんに告白された事実って、もしかしてものすごくとんでもないことなのでは!?

 ――なんて思っちゃったので、本人に突撃しました。珍しく小山くんと二人でお弁当です。
 単刀直入に、小山くんってモテモテだねと言ったら、そうなの? と不思議な顔をされた。よく考えれば『モテる』って客観的な評価だと気付いてあたしは質問を変える。
「告白されたりはないの?」
「……付き合ってとか、好きって言われたことはあるけど」
 おお! とあたしは思わず食い付いた。けど、次の、でも全部断ったという言葉に新たな展開はなくなった。
「店の手伝いに時間割きたいし、付き合うってよくわからないし。そもそも興味がない」
「なるほど」
 自分から話を振っておいてどうなんだって感じになるけど、あたしも正直興味がない。他に楽しいことがあるから恋愛にまで回す余裕がなくて、所謂ガールズトークが始まるとよく浮く。それはもうよく浮く。友達はあたしの様子がおもしろいからそれでいいって言うけど、やっぱりそういうものに興味を持ったほうがいいのだろうか。なかなかハードル高いなあ。
 よし。この手の話は続かなさそうだから別の話題引っ張ってこよう。
「ねえ、小山くん。こっちに引っ越してくる前で何かおもしろいことあった?」
 あまり深入りしたことがなかったから謎に包まれた転校前の小山くん。デリケートな部分に触れなければ大丈夫。大丈夫、たぶん。
「何か……そういえば」
 意外にも嫌な顔一つせずに答えてくれた。
「頻繁に手紙みたいなものが入ってた。机とか、ロッカーの隙間とか」
「あ! それあたしも入ってたことある!」
 差出人が不明だから返事のしようがないんだよね、と小山くんが言って、そう! と興奮気味に頷く。
 あたしのは男の子っぽいカクカクした字とか、崩れてフニャンってなった字とか。シャーペンや、ボールペンでも黒で、ルーズリーフなんかが多かった。たぶん男の子! 一方の小山くんは便せんが多かったらしい。たぶん女の子だ! 男の子と女の子の差!
「その手紙、小山くんはどうしてるの?」
「……こっちに来るときに全部処分した」
「そっかあ」
 そう言うあたしも全てなくしました。

 思いがけずかつてないほど盛り上がった話題の中心であるその手紙の意味を、小山くんはともかく、あたしが理解することはこの先もずっとなかったりするのでした。

PR
<啓太>

 お兄ちゃんが名前を呼んでくれた。
 あれ? そういえば、話しかけられたのも初めてだったような……。もしかして、お兄ちゃんは僕のこと嫌いじゃないのかな。だって名前呼んでくれたし、色々お話しできているし、きっとそうだ。わーい!
 今日の晩ご飯は、お母さんがいないから代わりにお兄ちゃんが作ってくれるって言っていた。お仕事がお休みのお兄ちゃんは学校から帰ってきて着替えると、僕と一緒に買い物に出かける。お兄ちゃんとお出かけをするのも初めてだ。
「お兄ちゃん、ご飯作れるの?」
「店でも作ってるよ」
「すごーい!」
 僕が褒めるとお兄ちゃんは少し笑った。今日のオムライスがすごくすっごく楽しみ。帰ったらお兄ちゃんのお手伝い頑張るぞー!
 スーパーに着いてかごを持ったお兄ちゃんと一緒に買うものを探す。お兄ちゃんはこのお店に来るのが初めてのようで、お母さんみたいに用のあるところだけ行くんじゃなくてどこにあるか探すようにぐるぐると回った。僕のほうが置いてある場所を知っているくらいだった。その途中でたまたまお菓子のコーナーを通って、僕はあるおもちゃ付きのお菓子を見つけた。前にお母さんに買ってもらったものだ。あんまりじいっと見ていたからお兄ちゃんに、欲しいの? って聞かれて思わず首をブンブン横に振る。お菓子はお母さんと約束したときにだけしか買っちゃいけないから、今日は我慢だ。
 お金を払い終わって袋に買ったものを入れていると、
「買い忘れたものがあるからちょっと待っててくれる?」
 かごの中身を空にして、すぐに戻るからってお兄ちゃんが言った。頷いた僕は食べ物が入った袋と椅子に座ってお兄ちゃんを待った。一人になると、さっき見たお菓子のことを思い出していた。
 やっぱり欲しかったなあ。
 いつも来るときには、僕が欲しがらないようにお母さんがお菓子のコーナーを通らないようにして買い物をしていた。お菓子コーナーに行くのはお菓子を買うときだけ。それを、今日はつい見ちゃったからダメなのをわかっているけど欲しくなった。数字がわかるようになってから、おもちゃ付きのお菓子が他のお菓子より高いことは知っている。同じくらいの値段のお菓子と比べても、お菓子はちょっぴりしか入っていない。だからお母さんはいつも、おもちゃが付いているのは一個だけって言うんだ。
 わかっているけど欲しいなあ。でも我慢しなきゃ。でも欲しいかもしれない。いや、やっぱり我慢しないと……。
 うーん、って考えているとお兄ちゃんが戻ってきた。そして、お兄ちゃんが手に持っているものを見て僕は驚いた。それに気付いたお兄ちゃんは、持っていたものの片方を僕に差し出す。欲しかったおもちゃ付きのお菓子だった。
「今日、買い物に来て手伝ってくれたからご褒美」
 持っていた残りの消しゴムは服のポケットにしまって、これでよかった? って聞くお兄ちゃんに、首を今度は縦にブンブン振った。
 わー! わー! すごい、買ってもらっちゃった!
 おもちゃ付きのお菓子を見て僕の目がキラキラ輝く。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「うん、よかった」
 じゃあ、帰ろうか、ってお兄ちゃんが言ってお店を出た。
「お母さんにはちゃんと言わないと駄目だよ」
「うん。じゃないと怒られちゃう」
 買ってもらったお菓子を片手に、反対側はお兄ちゃんと荷物を半分こにして持って帰った。
 次は袋越しにじゃなくて、お兄ちゃんと手を繋げたらいいな。

<それぞれの夏休み宿題事情>

・聡太の場合
「聡太くん、忙しそうだけど宿題とか大丈夫?」
 成績を見る限りでは問題なさそうだが、連日のアルバイトに加えお盆を迎えて以降、いつにも増して疲労感というか、元気のない聡太を布美は心配していた。治久たちと直接顔を合わせていないとはいえ、やはりお盆に連れていくべきではなかっただろうか。
 しかし、聡太に疲れていないかと聞いたところで大丈夫と返ってくるのは目に見えて明らかで、苦し紛れに布美の口から出てきたのは宿題のことだった。口うるさい親のようで自らの言葉に後悔する。やっぱり何でもないと布美が撤回しようとするより先に聡太が答えた。
「大きなものはもう済ませてありますし、残りも少しですから問題ないですよ」
「そう、よかった。あまり無理はしないでね」
 これ以上余計なことを言ってしまわないうちに退散してしまおう。そう思った布美を、しかし聡太が呼び止める。もごもごと、スッとは出てこない次の言葉を布美が待っていると、
「……あの、ありがとう、ございます」
 拙い笑顔でそう言われた。一瞬呆けた布美は我に返ると、どういたしましてと言って今度こそ立ち去った。
 その夕方、張り切って料理をする彼女の姿があったという。
 ――聡太は計画的に進めてしっかり終わらせるタイプ

・修と花の場合
「どうかよろしくお願いしまあああああす!」
 ズササササアッ、とでも音のしそうな勢いで修と花が土下座した相手は成だった。彼は、またかと呆れた目で二人を見ている。
 この光景は修が就学してから変わらない、毎年恒例のものだった。花と親しくなってからは彼女も加わり、しかも量は年々増加の一途を辿る。毎回休み始めに計画を立てさせ、それは周りが見ても何ら無理のないものであるのだが、何故かこの二人は終わらない。別にサボっているわけではなかった。比較的真面目に取り組んでいるはずなのに終わらせられない理由はそのスピードにあった。
 この二人、問題を解くのが恐ろしく遅いのだ。もちろん要領も悪い。それでよく高校受験通ったなと思うが、本人たち曰く、気合いで乗り切ったとのことだった。成としては、その気合いを毎回出してほしいというのが本音だ。しかし、そう上手くはいかない。
 というか、根本的なこととして、年下に頼るのはどうなのだろう。プライドがどうのとかそんな疑問も、誰かに頼ることは恥ずかしことではないという二人の考え方の前にはそもそもないものだと消え失せるのみであった。
「ねえ、俺、受験生なんだけど?」
「そこは承知の上で! 今度二人でスイーツでも奢るから!」
 必死に頼み込む修と花に、はあ、と成はため息を吐いた。
「……二人ともさっさと宿題広げて教科書貸して」
「よかったー! 助かるよ、成!」
「成くん、ありがとう!」
 救いの声に泣いて喜んだ二人は彼の指導のもと、なんとか提出に間に合った。
 ちなみに成はそろそろ学校の勉強にうんざりし始めている。
 ――修と花は、やる気はあるが頭と手のスピードが伴わず、終盤弟を頼るタイプ
   感想文とか作文は二人とも大得意

・仲良しトリオの場合
「宿題終わらねえええええ!」
「気付いたら新学期までのカウントダウンが始まってたとか……」
「僕は終わったけど」
「何それ羨ましい!」
 まだ宿題が多く残る倉本とそれなりに宿題を残している八巻は、三人の中で唯一全て終わっていると判明した西の家に集まった。目的は西の宿題である。二人は写させてもらおうと思ってやってきたのだった。
「本当にさ、毎度毎度のことで学習しないの、二人とも?」
「いや、わかってるんだけどさ」
「こればかりはどうしようもない」
 開き直る倉本と八巻に西は苦く笑う。
 答えを写すだけとはいえ、こうも夏に冬に毎回となれば二人相手に一人では西も正直しんどいところである。もう一人くらい勉強のできる人間が近くに欲しかった。例えば、
「小山とか教えてくれねえかなあ」
「ねえ、とりあえずその他力本願止めない?」
 たしかに思ったけど、と西は心の中で汗を垂らせた。考えていることは一緒だった。
「いや、でも小山は『自分でなんとかしろ』って言いそうな気がする」
「聞いてみるだけでもどうよ?」
 と、西の声は聞こえないふりをして倉本と八巻はどんどん話を進めていった。駄目元でということで、倉本が携帯を手にとって聡太の名前を探すが、見つからない。
「そういえば小山の番号知らねえ!」
「うっわ、聞く以前の問題」
「じゃあ観念して自力でやるしかないよね」
 頑張って、と写せない箇所に頭を抱える倉本と八巻に、西はそばで笑って見ていた。二人は死ぬ気で全てやり切った。
 そして新学期初日の放課後に、彼らは無事に聡太の連絡先をゲットしました。
 ――倉本は嫌なことを後回しにして終盤一気に片付けるタイプ(片付くかどうかの話は別)
   西は序盤に大半を済ませてあとはちょこちょこやるタイプ
   八巻も序盤に勢いよく進めるが終わりまで続かず、気付けば夏休みが終盤に差しかかって焦るタイプ

<桔平>

 聡太がまだ小学生で、俺もまだ学生だった頃の夏休み。学校が休みともなれば当然家にいる時間が増えるわけで、悲しくも友達のいない聡太が頼って訪れるのは自然とうちの店となる。長期休暇の大半をうちで過ごすのが当たり前だった。
 その日も俺は変わらず店の手伝いをしながら、店ではなくて隣にある俺の家で過ごしている聡太の様子をその合間に見ていた。昼時になると店が混むから聡太の昼飯は連れて遅くなる。前の晩の残り物を食べることもあるから先に食べてもいいと言ったことがあるのだが、待っていると首を振って、大人しく夏休みの課題を一人進めるのだ。
 そんな姿を見せられれば俺の料理をするスピードも上がる上がる。晩の残ったスープに具を足し、チャーハンを作り、サラダと一緒に手早く聡太の前に用意した。手を洗ってきて準備も手伝った聡太は俺が座ったことを確認して、一緒に手を合わせて食べ始めた。がっつきはせず少しずつ口に運んで食べているが……。お腹空いてたんだろうなあ。ああ、心が痛い。おいしいと笑って言うから救われはするものの、お腹空いたとか、もう少しわがままくらい言えばいいのにといつも思う。
「お兄ちゃんもおいしい?」
「そりゃ俺が作ったんだからおいしいに決まってるだろ」
 課題がどこまで進んだとか、難しくてわからなかったから教えてほしいところがあるとか、主に聡太の勉強の様子を聞きながら半分ほど胃の中に飯が入った頃、聡太が食べる手を止めた。そして、遠慮がちに言う。
「残りのご飯持って帰ってもいい?」
「は? 持って帰るって言ったって」
 どうやって、と続けようとした言葉は、聡太がリュックの中から魔法瓶とタッパーを取り出したのを見て、ただの息となり消えていった。やけにリュックが膨らんでいるかと思えば、それか。準備がいいと言うか、呆れながらも理由を聞けば今夜は家に誰もいないのだと返ってくる。
「伯父さんには友達の家に泊まるって言ったから、晩ご飯がなくて」
 だから持って帰ってもいい?
 言葉が出てこなかった。代わりにこぼれたのはため息だった。俺が何も言わないものだから聡太の顔に段々と不安の色が濃くなっていくのがわかる。無言でその手に持っていたお持ち帰りセットを取り上げれば、もう目に涙も浮かぶ。
「持って帰らなくてもいい」
「……ごめんなさい」
 怒られていると思って謝る聡太に、ちゃんと話を聞けとデコピンをする。ダムはすでに決壊している。身を乗り出して流れた筋を拭った。
「とりあえず目の前にある物を食え。話はそれからだ」
 コクンと頷いて泣きながらも聡太は昼を済ませ、俺は洗い物もそこそこに店で親父とお袋からの了解を得ると服を着替えた。
「行くぞ」
 聡太はわけがわからないと首を傾げる。俺は魔法瓶とタッパーを持って、
「これとお泊りセット、交換しに行くぞ」
「え?」
「おまえは今日、『友達』の家に泊まるんだろ?」
 頭を撫でながら笑って言った。すると、驚いたあとに聡太は、やっと嗚咽も治まったというのにまた涙をぽろぽろ落として、うん、と何度も頷いた。

「うちに入り浸ってる誰かさんに『友達』がいるってのは初耳だったなあ」
「いりびたりって?」
「うちにずーっと来てるってこと。どこの誰なんだろうな」
「うっ……」
 などと、周りに言わせればおおよそ『大人げない』言葉を俺は散々聡太に降らせてやった。正直、腹が立っていたのだ。
 何で直接的に俺を頼らないかな、こいつは。
 たしかに他人ではある。とはいえ、けっこう色々こいつの面倒見てきたつもりなんだけどなあ。
 その日の晩、盛大にお袋と親父に甘やかされ布団に入った聡太は、余程嬉しかったのか、これ以上ないというくらいにこやかな顔をしていた。笑みが溢れて止まらない聡太の顔に、持っていた紙を丸めて軽く打ち込むと、あう、と叩かれた場所を押さえる。聡太はそのまま押さえながら、お兄ちゃんと呼ぶと、
「ありがとう」
「……早く寝ろ」
 えへへと笑いながら、おやすみなさいと言って眠った。
 それ以降は同じことをせず安心していたのだが、引っ越した先でまたやったと聞いたときにはその頭に拳骨を一発食らわせてやった。

<貴恵>

「それで、結局あの日は何があったのよ、貴恵?」
 彼女の発言から堰を切ったように周りも、そうそうとか、教えてよと迫る。まさか男? なんてぶっ飛んだ想像までかましてくる彼女たちはあたしの友人だ。肉食系とでも言うのだろうか、ことその手の話題にはけっこうぐいぐいくる。
 あの日というのは盆あたりに彼女たちと夕飯の約束をしていた日のことで、急な用事で当日ドタキャンをしてしまったのだ。今はまさに喫茶店で奢るというその日の埋め合わせの真っ只中。
「路頭に迷っていた後輩を保護しただけだよ」
 へえ、そりゃ偉いわ、さすが貴恵、と周りが感心する中、しかし一人だけ、ん? と首を捻る。
「ねえ、それって前に言ってた後輩くん?」
 途端、一斉に注がれる視線。あ、ばれた。
 さっき、男? と聞かれたのもあながち間違いではなかった。いや、別にうしろめたさがあって隠していたわけではなくて、それで通ってしまえばそっちのほうが楽だっただけ――というのも、今となっては言い訳以外の何物でもない。どう足掻いたって疚しい気持ちとかそういうふうに取られてしまう。しまった。
 それからは一転して非難轟々。
「たしか高校生じゃなかった?」
「貴恵、未成年に手え出しちゃ駄目じゃん!」
「貴恵に限って……犯罪? 犯罪になっちゃうの?」
 と、次々と出てくる一方的な言葉を浴びせられこと約一分。こういう一分ってかなり長い。一頻り言い終えて彼女たちが落ち着いたところであたしは口を開いた。
「あんたたち、ここ喫茶店なんだけど?」
 少し声のトーンを落としてそう言うと、気付いた彼女たちははっとして口を噤んだ。
「たしかに晩ご飯作って泊めはしたけど」
「じゃあ、やっぱり!」
 被せ気味に言う彼女の頭にあたしは手刀を落とす。人の話は最後まで聞け。
「あたしはネットカフェに泊まったの。朝ご飯は作ってもらって帰ってから食べた」
 初めて行ったネットカフェはなかなか過ごしやすかった。個室だし、起きちゃってもネット使えるし。そしてさすがと言うか何と言うか、小山は料理が上手い。晩にあたしが出したのよりおいしかったんじゃないの、あれ。悔しい、でもおいしかった。ちくしょう、小山め。
「でもでも、てことは貴恵の布団使って寝たってことでしょ、後輩くん」
「いや、元通り過ぎて使ったかは知らないし」
「料理振る舞ってお返しに料理してくれる男の子とか、羨まし過ぎる!」
「何それ、恋人みたいじゃん!」
「付き合っていることは付き合っているの?」
 だから違うと。もう、どうして何でもかんでもそっちに持っていっちゃうのよ、あんたたちは。
 小山は性格上借りを作りたくないとかそういうことだろう。ご飯もらって泊めてもらって、そのお礼に朝ご飯を作るのを申し出たに過ぎない。布団も、使っていたとしてもきっちり元通り戻していそうだけど、あれはたぶん使っていない。座って寝でもしたのか、あいつは。そういうところが可愛げがないのだといつもいつも……。ため息を吐いた。
「そもそもタイプじゃないね。あたしは年上のしっかりした人が好き」
「あくまで理想でしょ? 実際に好きになる人って違うこともある、し」
 彼女があたしを見て固まる。いい加減にしないと口閉ざさせるよ、実力行使で? と拳をチラつかせながら無言で黙らせた。すみませんでしたという言葉が聞こえた。
「単純にほっとけないだけだって。弟に近いかな。みんなだって家族が困ったら手を貸すでしょ? そんな感じだよ」
 そう言って、渋々ながらも彼女たちは何とか納得してくれた。これで落ち着く。
 あんなことがあったにもかかわらず小山について詳しいことは知らずじまいで、元々深入りするつもりなんて毛頭ないけど、何だかなあ。もうちょっと何とかならないものかとは思う。
 そのあとは一時小山の話題になり、会いたい会いたいと言う彼女たちと実際に会う小山を想像して一人笑った。彼女たちとの出会いも小山の何かにはなるかもしれない。それなりの出費にはなったけど、まあそれも悪くないかな。なんてね。

・・――サイト案内――・・
                                日記・イラスト・小説を更新していくブログです                               HNの表記は、ひらがなでも、カタカナでも、漢字でも、アルファベットでも何でもよいです                                ほのぼの・ほっこりした小説を目指してます                                 絵に関してはイラストというより落書きが多いかも…                                                      と、とにもかくにも、ポジティブなのかネガティブなのかわからないtsubakiがお送りします
最新コメント
[04/08 つねさん]
[12/10 クレスチアン」]
[03/18 りーん]
[09/30 弥生]
[08/08 クレスチアン]
ポチッと押してみようか
blogram投票ボタン
プロフィール
HN:
tsubaki
性別:
女性
自己紹介:
ものごとを『おもしろい』か『おもしろくない』かで分けてる“へなちょこりん”です
外ではA型、家ではB型と言われます(*本当はB型)
家族に言わせれば『しゃべりだすとおもしろい』らしい
寒天と柑橘が大好きです^^
フリーエリア
ブログ内検索
バーコード
アクセス解析
忍者ブログ [PR]
Template designed by YURI