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布美の家に引き取られるまでのことを思い出させた花の言葉にしばらく機嫌を悪くしていた聡太だったが、翌日にはいつもと変わらない状態で自転車に乗っていた。前方の何人かいる他の徒歩通学者の中で突然振り返った生徒がいた。見知った顔だった。またしても花である。昨日のこともあり素通りしようとした聡太の服を花が掴む。
「小山くん!」
急に止まろうとしたせいか、ブレーキの音が響いた。両者にとって危ない行為だったがそこまでする用事が花にはあったのだ。呆れた顔を花に向けながらも聡太は何となくそのことに気付いていた。けれど一向に花の口から何も告げられない。
あとから来た生徒が横を通り過ぎていく。いい加減に我慢がきかなくなってきた聡太は自転車から降り、歩き始めた。ずっと掴んでいた聡太の服から手が離れそうになり、慌てて花もついていった。歩幅が違えば歩く速さも違うわけで、聡太と離れそうになりながらも必死に追いつこうとする。
「待って」
なんだかこのまま置いて行かれそうな気がして、花の声は普段の彼女から想像できないほどか細かった。
「小山くん、待って」
足を止めることもなく、振り向くこともない。冷たい態度を取り続ける聡太に、いっそこの手を離そうかと花が考えていたそのとき、聡太がぼそっと口にした。後ろにいる花にはよく聞こえず、聞き返す。
「道塞いで邪魔になるから、歩きながら話して」
用があるなら。
その言葉に聡太の服を掴んでいた手に思わず力が入る。待っていたのだ、彼は。なかなか切り出せず押し黙ったままの自分を待っていてくれたのだ。ならばなおさら伝えなくてはならない。けれど意を決しても、それでも花の口からは言葉が出てこなかった。
再び訪れた沈黙。別に自分から話すこともなく、自分の服を掴んでいるこの手は用事が済まなければ離されることがないだろうと半ば諦めにも似たものを感じ始めていた聡太に、鼻を啜る音が聞こえてきた。まさかと思い、足を止めて後ろを向けば、花の頬に涙の筋が見えて聡太はぎょっとした。
「ちょっと……!」
聡太の頭は軽く混乱を起こしていた。嫌われるのは構わないが、突然泣き出されるのは困るのだ。当の花も、自分が涙を流している理由がなんとなくわかるものの止めることができずにおろおろしていた。
「あれ……? ごめん、止まんない」
男子が女子を泣かせている。
そうとられてもおかしくない状況に聡太と花は立っていた。小さな声で野次られているのが耳に入る。周りから変な目で見られることに耐えかねた聡太は、今度は自分が花の腕を掴んで歩き出した。中には更に盛り上がる者もいたが、聡太にはそれが何を意味しているのか分からなかった。
「あの、小山くん?」
「いろいろ誤解を生むから早く泣き止んで」
聡太の声からも行動からも若干の焦りが伝わってきて、珍しい彼の様子に花はこっそり笑った。
学校の駐輪場に着く頃には漸く花の涙も止まって、聡太は安堵のため息をこぼす。
「次は勘弁して」
「本当にごめんね!」
そして花の頭には当初の目的が残っておらず、同様に聡太も、何故こんなことになってしまったのかなどきれいさっぱり忘れていたのだ。
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家族に言わせれば『しゃべりだすとおもしろい』らしい
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