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教室の風景がすっかり変わったと感じた。一歩踏み入れるとクラスメートの視線が自分に集中し、そしてすぐに何もなかったかのように友達との会話が再開される。中には聡太への悪口を口にする者もいたが初めてのことではないから気にならない。経過は違うものの、当初聡太が望んでいた形になっていた。……そのはずなのに、
「おはよう、小山!」
「おは、よ……?」
声をかけられたのはどうやら自分のようで、戸惑いながらも何とか返事をする。聡太の目の前には三人のクラスメートがいた。一体何が起こったというのだ。更には三人共に頭を下げて謝ってくるものだから、いよいよ聡太の頭はパニックを起こす。
「最初はやっぱりびっくりしてさ、正直『騙された!』って感じだったんだけど」
「怒鳴ったの見て、むしろ前より人間らしさが増したというか。俺らと近いってわかったというか」
「まあ、勝手に勘違いしてたのは僕たちなんだけどね。……小山、大丈夫?」
突然の告白に頭がついていかない。ぼーっとする。
「何で……」
「だからさ、前よりも仲良くなりてえなって思ったの」
「今のが好きだよな」
周りが頷く。顔が、湯気の出るくらい熱くなっているような気がする。きっと耳まで真っ赤になっていることだろう。聞いていて恥ずかしい。彼らは自分が口にしている言葉に羞恥はないのだろうか。
「……そう」
「あれ、小山、照れてる?」
からかうように言われたものだから、うるさいと返した。小さくて力のない声だった。だから笑われたのだけれど、何故だろう。不思議と嫌ではない。自分でも知らないうちに聡太も口元に笑みを携えていた。
改めてできた友達との談笑の中、背中になんだか生温かい視線を感じて後ろを向く。予想はしていたが、やはり修と花だ。すっかり破顔したその表情は保護者のような感情からきているのかもしれない。言い方は悪いが、正直うっとうしい。
一方で、このようにしてくれたのは間違いなく彼らだということは認めている。修や花、話しかけてくれるクラスメートが変わっているのだと思いはするが、聡太だけだと何も変わらなかったに違いない。
両親を亡くしたショックで無愛想のままでいれば疎まれて誰も寄ってはこなかった。
しばらくして、逆に愛想よく振る舞っていればそれなりに人が寄ってくるようにはなった。ただ、その関係は環境が変われば解消され、少しでも素を出せばたちまちに敬遠される程度のものだった。だからこそ聡太にも未練などというものがなかったのだが。
「小山くん、ご飯食べよう?」
何気ないやり取りでさえ聡太にとっては奇妙なもので。あのときからずっと諦めていたもので。心の奥が温かくなる気がして。
まだ全てを受け入れきれはしないだろうけれど、いつか、そんな日が来るのだろうか。
伏せたままの両親との写真を、今日くらいは久しぶりに立ててもいい。立てられていれば気が動転してすぐさま倒していたのに、そう思えるような気分だった。
「そういえば、来週あたりから雨マークがいっぱいあったよ」
「そろそろ梅雨入りかもな」
梅雨。雨。そうか。
「おーい、小山ー?」
どこか遠くを見つめていた聡太の目の前で修が手を振った。記憶の中の雨の景色が一変する。現実には気持ちのいい青空が広がる。
「大丈夫か?」
「ん、何でもない」
賑やかさの増した昼休み。若干の湿り気を帯びた風は少しぬるく感じた。
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