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 修からの拒絶は聡太にとって想像以上に堪えたらしい。気付けばぼーっとしていることがあからさまに増えた。一方の学校で会う修は、見る限り今まで通りであるし相変わらず家にも誘ってくる。何故そんなにも普通でいられるのだろう。
「小山ってば!」
 バシーンッと勢いよく背中を叩かれて我に返った。背中がじりじりと痛む。これは赤くなっているに違いない。恨めしそうに原因を睨むと、貴恵は悪びれもせず、何度も呼んだのに返事がないから仕方なくと言う。たしかにそれは聡太に非があるのかもしれない、が、それを差し引いても彼女のすぐ手が出る癖はどうにかならないのもだろうか。
 少々腑に落ちずも謝ったところで、そういえばと思い出した。
「大学生でしたよね」
「そうだけど?」
 返事をして、おやおやと貴恵はにんまりと聡太を見た。彼が他人に興味を示すなんて、またこれは珍しいことに遭遇したものである。
 そんな貴恵に露骨に嫌な顔を見せながらも聡太は本題を切り出した。
「どうして大学に進むんですか?」
 突然の質問に面食らった貴恵は、一瞬ポカンとしてそれから笑い出した。だから何故笑うのか。おもしろいことを言った覚えなど何一つない。現役の大学生である彼女なら何か答えてくれると思ったのに。
 ごめんごめんと謝ってから、貴恵がうーんと唸って考え出す。
「正直、人それぞれではあると思うんだけど」
 働きたくないから、もう少し遊んでいたいからという人もいるし。反対にもっと勉強がしたいからという人もいる。大学や短期大学などの上級学校を卒業しなければ取得できない資格だってたくさんある。
 いまいち納得のいかない聡太が、貴恵はどうなのかと尋ねると、彼女は視線をずらしながらそれでも答えてくれた。
「あー……。わたしは大層な理由なんかないよ。流れるままにって感じかな」
 それから少し自分の話をしてくれた。
 勉強も、運動も、交友関係も。学校生活においても、私生活においても。貴恵にはほんの些細な悩みこそあれ、頭を抱えたり夜を眠れなかったりというものが一度としてなかった。周りにはよく羨ましがられたものである。悩みがなくて幸せだね、と。
 そんな貴恵が途方に暮れるほど悩んだのが高校生のとき。奇しくも聡太と同じく、クラスが進路についてざわめき始めた頃だった。自分の希望する進路が全く見つからなかったのである。今が楽しければそれでよし。高校は推薦をもらえた学校へ進学。将来なりたいものは特に考えたことなどなく、ましてや夢を達成するための道を探したこともない。
 貴恵は酷く焦った。このままでは社会に出ていけないという危機感すら覚えた。
「それで、見つかったんですか?」
「いーや。結局見つからなくて得意な教科を生かせる系統の学部に進んだ」
 少なからず衝撃を受けた。貴恵は目標を持ち、あるいは達成すればまた次、また次と目標を掲げ、それに向かって生きている人だという印象を持っていたから。
「でも、大学に通っているうちに夢ができた。運よく今いる大学の卒業の先のね」
 本当、親に感謝だよね。
 苦く笑い続けていた貴恵がやっといつもの笑みに戻る。もしも、まだ悩んでいる最中の彼女に出会っていたのならば、また違う印象を持ったのだろう。聡太が初めて会ったときの貴恵は、きっと、すでに目標を見つけて生き生きとしている彼女だ。
「まあ、あんたの場合は大学なり何なり進んでさ、もう少し学生を味わってもいいんじゃないの」
 やりたいことがあるなら尚更。
 そう言いながら貴恵に額を指で弾かれる。だからすることが一つ余計なのだ。聡太はムッとして、
「……もう一度検討してみます」
 聡太の答えに一つ頷いてその場から去ろうとする貴恵を、今更ながら気付いたことがあり呼び止めた。
「何か用でもありました?」
 たしか何回も呼ばれた果てに聡太は背中を叩かれたのだった。聡太の言葉に貴恵もようやく思い出したようで、それは聡太が元気のなさそうな顔をしていたからだと言う。
「……それだけ、ですか?」
「そう、それだけ」
 思い返せばこうした貴恵の行動は今まで幾度となくあったことであるが、改めて意識するとなかなかに恥ずかしいもので。
「何と言うか……。暇なんですか?」
「言うに事欠いてそれか、このクソガキ」
 怒られる自覚があったから逃げる準備はしていたのだけれど。見事に貴恵に捕まった聡太は思い切り頬を抓られてしまった。
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