忍者ブログ
[452]  [451]  [450]  [449]  [448]  [447]  [446]  [445]  [444]  [443]  [442
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


「お兄ちゃん、おかえり!」
 満面の笑みで迎えてくれた啓太。それに返事をしようとした聡太は啓太の横にいる、よく見覚えのある顔に気付いた。
「あ、聡太さんだ!」
 修の弟の拓だった。そういえば玄関に啓太とは別の小さな靴があったことを思い出す。互いが互いに知り合いということで啓太も拓も驚きを隠せない。二人ほどではないにしても、聡太もまた驚いている。世間は狭い。
「あのね。たくちゃんと僕、同じクラスなの」
 ねー、と啓太と拓が顔を見合わせて言った。
 聞けば、現在小学二年生の二人は入学して以来の友達なのだという。普段は外で遊ぶのだが今日はたまたまここのいるとのこと。どうりでこの組み合わせを初めて見るわけである。
 続けて聡太とは従兄弟同士なのだと啓太が拓へ説明し、次に聡太と拓との関係を聞いてきた。
「聡太さんは僕の兄ちゃんの友達で、時々うちに来てくれるんだ」
 啓太と拓のおかげで三人の間にあった疑問が全て解消された。もはや修の『友達』として紹介されて違和感を覚えなくなっている自分に、聡太は気付かない。

 勉強が一段落つき、聡太が一息吐いていると部屋のドアが開いた。そこにいたのは一階で遊んでいたはずの啓太と拓。気になって時計を確認すれば時間は午後五時半。衣替えが終わり日も短くなっている今の季節にはもう遅い時間といってもいい。
「……たくちゃんがね、まだ帰りたくないって」
 拓を見ると口を一文字に結んで啓太の後ろに隠れるようにして立っている。理由を聞こうとしたところで聡太の携帯が鳴った。画面に表示される名前は宮守修。電話に出た聡太が口を開くその瞬間、
《小山ー! 拓見なかったか!?》
 拓ならば今まさに目の前にいる。そのまま修に伝えようとした聡太は、もう一度拓を見て、しかし少し気が変わった。
「うちにいる。でも、急いでは来るな、絶対に」
 わかったと返事がきて電話が切れた。でも、と条件を強めに言ったが果たして彼がちゃんと聞いたのかどうか。修が迎えに来ると拓に告げると、嬉しいような、けれど苦そうな複雑な表情になる。
「何かあった、のかな?」
 ずっと口を固く結んだままの拓。聡太が背中を撫でていると、ゆっくりと口を開いた。
「……お兄ちゃんは、」
 修は兄弟みんなが尊敬していて、なくてはならない存在。彼がいるだけで何もかもが違う。
 成はしっかり者。修がうっかりしている分、彼がサポートに回っている。
 照は世話好き。よく拓や陸の相手をして、宮守家の小さなお母さん的存在でもある。
 陸はみんなのムードメーカー。家族内の会話の大部分の中心には彼がいる。
 そんな兄弟に囲まれて、それなら自分は一体何なのだろう、いてもいなくても変わらないのではと悲観に暮れているというわけだった。拓の話に一人非常に既視感を覚えて聡太は首を傾げた。
「僕はたくちゃんといると楽しいよ!」
「けいちゃん、ありがとう……」
 ピンポンとインターホンが鳴った。
 下りて玄関の戸を開けると汗を滴らせた修が息を乱しながら立っている。家から走ってきたのが目に見えてわかった。急いで来るなと言ったのに、この男、全く話を聞いていない。案の定のことに呆れる。
「に、にいちゃ……」
「拓!」
 大声で呼ばれビクッと体を硬くする拓の頬を修が挟んだ。
「みんながどんだけ心配したと思ってんだ!」
 修の顔は真剣だった。真剣に拓を怒っている。笑顔が常の修が人前でもこんなに怒るのはきっと、それだけ彼にとって拓が大事だからに他ならない。
「……でも、何もなくてよかったあ」
 そう言って抱き締めると、今まで泣きそうだった二人がついに泣き出した。たとえ大袈裟だと言われようとも、彼ら兄弟は全てにおいて真面目であってそれが当り前なのだ。そんな二人を見て啓太がそっと聡太の手を握った。
 一頻り泣いて落ち着くと兄弟は聡太たちにお礼を言って帰っていった。陸には内緒だと肩車で歩いていく姿はなんだか微笑ましい。それを聡太の隣で啓太が羨ましそうにじいっと見ている。
「兄さんが欲しいの?」
 その問いかけに啓太は聡太を見てブンブンと首を横に振った。
「だってお兄ちゃんがいるもん」
「僕はおまえの兄さんじゃないよ」
「でも、お兄ちゃんだもん」
 桔平もこんな気持ちだったのだろうか。そうであればいいと思う。
 胸にじんわりと広がった感情に照れながらしかしそれを隠すように、聡太は繋いでいた啓太の手をぎゅっと握った。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
・・――サイト案内――・・
                                日記・イラスト・小説を更新していくブログです                               HNの表記は、ひらがなでも、カタカナでも、漢字でも、アルファベットでも何でもよいです                                ほのぼの・ほっこりした小説を目指してます                                 絵に関してはイラストというより落書きが多いかも…                                                      と、とにもかくにも、ポジティブなのかネガティブなのかわからないtsubakiがお送りします
最新コメント
[04/08 つねさん]
[12/10 クレスチアン」]
[03/18 りーん]
[09/30 弥生]
[08/08 クレスチアン]
ポチッと押してみようか
blogram投票ボタン
プロフィール
HN:
tsubaki
性別:
女性
自己紹介:
ものごとを『おもしろい』か『おもしろくない』かで分けてる“へなちょこりん”です
外ではA型、家ではB型と言われます(*本当はB型)
家族に言わせれば『しゃべりだすとおもしろい』らしい
寒天と柑橘が大好きです^^
フリーエリア
ブログ内検索
バーコード
アクセス解析
忍者ブログ [PR]
Template designed by YURI