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そこに一つ空席があった。
いるはずの、いなければならないはずの人間がいなかった。周りは彼を非難する。何故いないのだ、と。とんだ親不孝者だ、と。
対して、少なからずとも事情を知っている者はじっと耐えていた。握る拳に力が入る。声を大にして抗議したかった。違うのだ、と。あなたたちが今思っているような子ではないのだ、と。
けれど言えなかった。
事情は知っている。ただ、理解の程度がはっきりとしたものではなく、薄ぼんやりとした、曖昧なものであった。本人から直接話を聞いているわけでもなく雰囲気で感じ取っているに過ぎない。おそらくは、本人すらも無自覚なもの。
そんな、ふわふわ浮いて掴めない微妙な説明で周りを説得させることは、少なくともこの場にいる者にはかなわなかった。
日が暮れるか暮れないか。アルバイト先からの帰り道の途中にある公園。いつもなら素通りしてしまうはずのその場所。何かに引っ張られるように視線を向けると、そこで、それはもう可愛くなくて仕方のない後輩を貴恵は目にした。
「何やってんの」
服は、貴恵の知る限りで彼らしいと思えるようなシンプルで目立たないもの。そばには少し出かける程度の大きさの鞄。
聡太は今日、シフトが入っていなかったはず。あまり外を出歩かないタイプだと思い込んでいたので、貴恵にとってアルバイト先以外で彼と会うのは珍しくもあった。
聡太は貴恵を見つけるや否や下を向いて目を合わせないようにしている。黙りを決め込む聡太にしゃがみ込んで目線の高さを近付け、強引に自分のほうを向かせた。それでも目は横を向いたままで、イラッとした貴恵が聡太の頬を思い切りつねる。堪らずに、痛いと涙目で睨まれた。痛いようにやっているのだから痛くて当たり前だ。
「やっとこっちを見たか。……で、」
何でこんなところにいるんだ。
口を固く縛ってもう一度目を逸らそうとすると、聡太の頬に触れたままの貴恵の手に再度力が入り始めたのを感じ、渋々聡太はぼそっと呟いた。
「……帰るところがないんです」
まさか家を追い出されたのかと驚いたがどうやらそうではないらしい。詳しいところが気になるものの、今の一言を聞き出すのに大分渋られたということはこれ以上のことを知るのは難しいに違いない。今まで彼が貴恵の質問に満足のいく答えを返したことなどないのだから。
聡太のことだから、大方この公園で一晩明かそうだとか考えているのだろう。まったく、補導されたいのか、この子は。
ため息を一つ吐いて立ち上がる。携帯電話を取り出して、今晩約束していた集まりを欠席する旨を友人に伝えた。電話の向こうから聞こえる不満の声に、もちろん埋め合わせの約束も忘れない。
「ほら。立った、立った。行くよ」
意味がよくわからないといった表情の聡太に貴恵は自分の家に連れ帰るのだと説明する。今にもホームレスとして公園で野宿しそうな後輩を見捨てて去るなどということは、貴恵のプライドが許さなかった。
「……いいです」
「『いいです』じゃないわ、この馬鹿!」
遠慮しているのか、はたまた関わってほしくないのか。十中八九後者だ。
本当にこの後輩は可愛くない。これはもう、意地でも連れて帰る。
嫌がる聡太を力ずくで立たせ、しっかり腕を掴んで引きずりながら自宅まで戻った。
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