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「げっ、宿題忘れた……。小山あ……」
「見せないから」
 泣きつくクラスメートを聡太は呆れ顔でバッサリと切った。限られた時間でできる限りの努力をするべきだし、答えを丸写しなど全く彼のためにならない。落胆するクラスメートにわからないところは教えると、自分でなんとかするように促す。
 なかなか自然に会話ができるようになってきた。自分でもそう実感が持てるほどに。啓太と話せるようになったことも大きいかもしれない。
「おっはよー! あれ、朝から勉強?」
 不思議そうに輪の中へ入ってきた花に彼が宿題を忘れたから手伝っているのだと説明すれば、突然思い出したように自分も忘れたと慌て出した。花が少し期待のこもった眼差しで見つめるもやはり聡太には何の効果もなくて、駄目だとこれまた一蹴されてしまう。
「小山くん、意地悪!」
 何故そうなるのか。
 文句を言う花を隣に座らせ宿題を広げさせた。嫌々ながらシャーペンを握り問題とにらめっこする花と、そんな彼女に丁寧に教える聡太を見てクラスメートが、
「あ、あのさ、小山と寺岡って、その……」
 付き合ってんの?
 果たして彼が何をそんなに焦り、どもりながら聞いてくるのかは聡太の知るところではないが。
 それはともかくとして、この疑問は少なからずクラスのみんなが気になっていた。転校してきてから何かと一緒にいることの多い花との関係を勘繰るのは、彼らにとってはごく自然なことだ。
「違う違う。花と付き合ってんのは、俺」
 予想外の質問にどうしたものかと答えかねていた二人に代わって口を開いたのは、ちょうど登校してきた修だった。少し優越感が窺えるように、自慢げに笑みを携えながら花の肩を抱いている。
「あれ? 付き合ってたっけ?」
 あまりにも急な展開に周りが驚いたのも束の間、直後、花によるネタばらしであっという間にみんなの興味が尽く削げた。熱するのが早いが冷めるのもまた早い。早いってと修はそばで肩を落とした。
 ため息を吐いたまま、そのまま修は聡太をいくらか離れた場所まで連れて耳打ちをする。
「で、本当のところどうなんだ?」
 言わずもがな花のことである。さすがの聡太でも理解し、今までの花を思い返すと、
「……おまえと一緒にいるのを見るともやもやしてた、かな。少しだけ」
 感じたままを伝えた。正直なところ、それが『好き』という恋愛感情なのかは定かではないがそれを聞いた修がニッと笑った。
「よっしゃ。任せとけ!」

 放課後。修に言われるまま花と屋上にいる。修がこっそり隠れて見てはいるが、実質聡太と花はほぼほぼ二人きりという状況。いつもと違う空気に気付き居心地の悪さを感じているのか、花はもじもじと落ち着かない。
 暫しの沈黙の後、聡太が花の名前を呼んだ。花はビクッと身構える。
「好き、だから僕と、その……付き合って?」
 聡太にとって人生初となる告白だ。ゆっくりと聡太の言葉を咀嚼し、意味を理解した花の顔が火を噴くかというくらい真っ赤に染まった。途端にわたわたと慌て出す。ものを言おうにも意味のある言葉として口から出てこない。
 おかしい。
 そんな花の様子をよそに聡太の頭も動機もいたって冷静だった。告白とはもっとドキドキするものではないのだろうか。そう、例えば今まさに目の前にいる花のように。
 淡々と自分の感情を分析していくと聡太はある結論に辿り着いた。
「う……えーっと、小山くん、あの」
「ごめん」
 違うみたい。
 頭を下げて謝罪した。どうやらそういった感情ではなかった。全くもって迷惑な話ではあるが、こういう形をとらなければ、あるいは本当に誰かを好きにならなければ違うのだとわからなかったことだろう。
 場の空気が一瞬にして固まり、先程までの熱っぽさも冷えきった今の状態にどうにも鈍い聡太だけがわかっていない。
「ばっ……!」
 修の叫んだ声が聞こえた。すぐに口を塞いだようだがもう遅い。花も修に気付き、若干怒気のこもった声で名前を呼ぶと飛んで姿を現した。
「……修くんと小山くんの、馬鹿あ!」
 夕日が差す屋上で乾いた音が二回響いた。
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