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およそ一人分を空けて隣り合って座っている。顔を合わせず二人で空を見上げる。きれいだねと花の言う通り、明かりの少ないこの場所は星がよく見えた。
「遊びに来たのになんだか働きに来たみたいだね。お手伝いさんみたい」
朝から晩まで。炊事に洗濯、掃除、更には庭仕事に至るまで。聡太は暇さえあれば声をかけて自ら手伝いを任されにいっていた。その様子を見て花が言ったのだ。
「家でもそんな感じなんじゃない?」
もしかしてと笑う花にドキリとした。
実際のところは外にいるようにしているために手伝うことなどほとんどないのだが。もしアルバイトをしておらず布美の家にいることが多ければ、そうだったなら、意識的でないにしろ同じことをしていただろう。自分の行動を見透かされたようで聡太は若干動揺した。
下を向いて完全に黙り込んでしまった聡太を見て花は笑うのを止めた。予想していなかった展開に腕を組んで唸りながら考え、何か思いついたのか、そうだと言って聡太の肩を叩き自分のほうを向かせる。
「あたしね、『家』が三つもあるんだよ」
「……は?」
いきなり何を言い出すのか。花の意図が全く掴めず、聡太は間の抜けた顔を花にさらす。
「今の家と修くん家、あとは前にいた施設。全部で三つ!」
指を三本立てて見せる花。そこでようやくわけのわからないといった表情の聡太に気付き、頑張って言葉を探しながらなんとか説明する。
「『家』っていうのは、えっと。建物とかそういうんじゃなくって。その、帰ったら、おかえりって言ってくれる人がいるというか……。そう! 自分の帰りを待ってくれている人がいる場所」
自分の帰りを待ってくれている人がいる場所。
ぼそっと復唱した。花がうんうんと頷く。
「そうだよ。小山くんにもきっとあるでしょ? ほら、今いる叔母さんのところとか」
たしかに、聡太が帰るといつも布美は玄関まで出迎えてくれる。バタバタと慌てたように来るときもある。この旅行が終わって家に着けば、また、おかえりなさいと言ってくれるに違いない。
「小山くんは親と一緒に暮らしてたんだっけ?」
頷くと、じゃあ二つだねと言う花に、待ってと声をかけた。
「……あと一つ」
花の目が驚きと嬉しさで大きく開く。そして満面の笑みで聡太の手を握った。
「そっか。そっか! 小山くんも三つもあるんだね!」
布美の家。両親といた家。それから、桔平のいる店と家。全部で三つの『家』。
よくは理解していなかった聡太だったが、不思議とお腹がいっぱいで心も満たされた気分になった。少しだけ、本当に少しだけ、聡太は花に笑った顔を見せた。
「――遅くまで起きているお二人さんに差し入れ」
ちょっと失礼と現れたのは麦茶を持った成。聡太と花と自分のとで三人分。氷も入れてあって冷たくておいしい。余程のどが渇いていたのか花は一気に全部飲み干すと、おかわりと言い、空になったグラスを持って台所まで走っていった。
二人きりになると一時ほど静かな時間が流れ、成が口を開いた。
「俺、負けませんから」
何にと聞きたくなるような成の突然の宣戦布告に聡太は目を丸くしてポカンとする。そんな聡太をよそに成が一人満足そうに笑いグラスを空にした頃、花が戻ってきた。
「よーし、明日からは手伝い分担するよー!」
「朝早いのはパスでお願いしまーす」
残りの二日。花の宣言通りみんながそれぞれ手伝って聡太の負担は極端に減った。手持無沙汰な時間もそれほど苦に感じず、海もそこそこに楽しめた。
だから、予想に反して充実した四日間を過ごした聡太は忘れていた。夏休みにある一番大事なことを、帰って布美の口から告げられるまで忘れていたのだ。
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家族に言わせれば『しゃべりだすとおもしろい』らしい
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