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 夏休み明け。学校はとても賑やかだ。春に聡太が転校してきたときも同じ雰囲気だった。ただ、擬音を付けるのならば前者がガヤガヤ、後者がザワザワといった違いはある。
「おっはよー、小山!」
 こんな中でもどこか遠くを見て自分の世界にいる聡太にはクラスメートの声が届かず、そのまま素通りしてしまう。慌てたクラスメートが追いかけて耳の近くでもう一度呼び、そこでようやく聡太が気付いた。
「……あ、うん」
 明らかな生返事。声は聞こえたものの挨拶とはわからなかった聡太に、それは挨拶じゃねえよと笑いながらツッコミを入れてみても、それも流されてしまった。
「小山、どうしたんだろうね」
 残されたクラスメートは怒るわけでもなく心配そうに聡太の背中を見送る。
 あとで会った修と花にも同じ対応で、これは何かあったなと昼休みに二人は聡太を連れ出した。
「おーい。とりあえず生きてるかー?」
 終始ぼーっとしている聡太の前で修が手を振ってみる。すると一瞬ハッとして一応返事はするがまた元に戻ってしまう。何回か繰り返しても同じ反応で、このイタチごっこを止めるために今度は目の前で思い切り手を叩いた。
「びっくりした……」
「……ようには見えないぞ?」
 もとより彼らが知る聡太はリアクションが薄いほうではあるが、それにしても普段と比べれば輪をかけて薄かった。顔色もあまりいいようには見えない。
 二人があまりにも心配そうな顔をするものだから、一つ深く息を吐いて、聡太は俯いた顔を両手でこすった。
「……わからないんだ」
 聡太の言葉に修と花は首を傾げる。
「ずっと一人でいいって思ってた」
 今はまだ無理だとしても、いつか、近い将来に自立できたならば。誰の助けも借りず、頼りもせず一人で生きていこうと決めていた。だから、いくら周りに嫌われようとも気にならなかった。むしろ好都合ですらあった。自分といて楽しそうな表情を浮かべる者など桔平以外にいなかった。琴子に疫病神と叫ばれる前から、自分は周りの人間を不幸にしかできないのだと、心のどこかで感じながら生きてきたのかもしれない。
「人の厚意の応え方がわからない」
 正直、聡太は少し怖かった。一緒にいるその人を不幸にしてしまうかもしれないというのもあるが、何といっても未知の領域なのだ。踏み出すには勇気がいる。
「……わかるよ」
 顔を上げて花と目が合った。自分も同じだったと彼女は告白する。
「あたし、新しい親ができてからもね、ずっと家族は施設のみんなだけって頑固に思うようになっちゃってたんだ。でもね」
 一旦言葉を切って修を見る。
「修くんが声をかけてくれて、一緒に過ごすうちに段々と受け入れられるようになったんだ」
 花は目一杯の笑顔を聡太に向けた。その笑顔は、聡太には眩しいくらい輝いて見えた。とても、とても幸せそうに見えた。
「小山くんは、きっと一人でい過ぎたんだね」
 体感的な時間であれ、実質的な時間であれ。長い間一人でいると、ふと現れた、心を許せる人に依存する。だからその分、周りへは塞ぎ込んでしまうのだと、以前、花は聞かされたことがあった。事実、聡太が桔平に対して依存気味なところを思えば、その考えは当てはならないではない。
「だから……。はい、じゃあ、修くん!」
「え! お、俺?」
 花から突然投げられた修は盛大に慌てふためき、一言ずつ花の様子を見ながら、
「と、いうわけで、だ。今日、俺ん家に来い!」
 言い切ったぞという顔をしている。花はにこにこ柔らかく笑う。
 ああ、そうか。少しずつ。
 二人が言わんとしていることがわかった。そして、かつて桔平がしようとしていたこともわかった。あのときは彼の期待に応えられなかったのだろうけれど、今ならば。
「あ、バイトがあるから無理」
 危ない。もう少しで無断欠勤するところだった。
 流れを読まない予想外の、けれど聡太らしい答え。一瞬ポカンとした修と花がどっと笑った。
「そこは『行く』だろ」
 今度はバイトじゃない日に誘うよ。
 そう言った修に頷いて約束した。
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