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 この日は一日中ご飯のことで頭がいっぱいだった。それは聡太が食い意地が張っているわけでもお腹が空いているわけでもない。理由は今朝のこと。
「聡太くん。悪いんだけど、晩ご飯をお願いできるかしら」
 と。布美に頼まれた。どうやら以前勤めていた職場の友人との食事が入ったらしい。だから聡太と啓太、利也の三人分。布美の頼みを断ることはできず聡太は首を縦に振ったのだ。外食でも構わないとのことだが、そういった経験がないに等しい聡太には勝手がわからないので作る他に選択肢はなかった。
 ハンバーグ。カレー。オムライス、などなど。
 小さい子供が好きそうなメニューを聞いて回って出てきたものだ。修や花をはじめとするクラスメート。自分の好みや記憶を当てにできない聡太はなるほどと頷いて布美の家へ戻った。
 リビングに顔を出すと啓太が座って待っていて、財布を手に持って近くに寄ってくる。はいとそれを聡太に差し出した。
「お母さんから預かったの」
「あ、うん。ありがとう……」
 財布を受け取った後、聡太は固まった。
「えっと……」
 しまった。何を話せばいいのかわからない。
 自ら言葉を切ってしまい、せっかくの啓太と会話する機会を見事に逃した。今は布美や利也が不在で仲介してくれたり代わりに啓太と話してくれたりする人が誰もいない状況。流れるのは沈黙。正直、気まずい。
 すると、黙り込んでしまった聡太を見て名前を覚えられていないと思ったのか、啓太が、啓太だよと自己紹介をする。違うのだけれど、これはチャンスなのではと考えた聡太が口を開いた。
「あー……と、啓太、は、玉ねぎ平気?」

 啓太にある程度の好き嫌いとアレルギーの有無を聞いた結果、オムライスを作ることにした。足りない材料を一緒に買いに行き、これから調理を始めるところである。余程好きなのか、啓太は、オムライスと弾みながら何度も口にする。
 僕も手伝うと言う啓太に、うーんと考えた後、調理器具の在り処を教えてもらい出せる物は出してもらった。初めて使う台所事情は啓太のほうが詳しいし、それに万が一間違って怪我をされてしまうと聡太は責任を負いきれない。
「啓太、これやってみる?」
 切る物は全て切り、チキンライスも出来上がった。器具を出したきりしばし待機だった啓太が喜んで寄ってくる。
 まずは、スプーンでチキンライスを作るのに余った鶏ひき肉をこねた物をスープが入っている鍋に落とす。その際に熱いスープが散らないように低い位置でそうっと。そして蓋をする。
 次に、皿を出してサラダに使う生野菜を盛る。レタスと玉ねぎ、トマト。玉ねぎは辛さが抜けるよう水にさらしておいた。サラダ用のソースも用意してある。
 出来上がったスープを注いで、サラダと一緒に落とさないよう運んでもらっている間、聡太は最後にチキンライスを卵で包む。フライパンに卵が注がれて音がすると啓太が様子を見ようと飛んできた。目を輝かせて卵を見る。そのそばで包み終わったオムライスを皿に移した。うわあと啓太の歓声が上がった。
「きれい。おいしそう!」
 ケチャップは啓太に任せて。これでもう食べるだけ。
 いつものように向かい合って座る。けれど、いつもとは少し違う食卓。オムライスを一口。なかなかおいしくできている。
「おいしい!」
 啓太が一通り口にしたところで聡太は、実はと切り出した。
「これ全部にんじんが入っているんだけど」
 それを聞いた啓太はポカンと口を開けて間の抜けた顔をする。
 オムライスにはよく細かく刻んで。
 スープの鶏団子とサラダ用のソースにはすりおろして。
 近くにいる啓太がわからないようにこっそりとにんじんを入れるのは実に骨の折れる作業であった。
「にんじん……僕、食べられたんだ……」
「うん、食べられた」
 すごい。お兄ちゃん、すごい。
 ぱあっと嬉しそうに繰り返す啓太を見て聡太の顔が綻んだ。
 その後帰宅した利也にも聡太の料理は非常に好評だった。啓太と利也があまりにも自慢気に話して悔しがる布美にもう一度腕を振る舞うことになるのだが、それはまた別の話である。
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