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「迷子にならないように、ちゃんと手を繋いでおけよ」
 まるで引率の先生のような修の指示通り、みんなそれぞれに手を繋ぐ。花と照。成と陸。そして、じゃあ僕は聡太さんと拓のまだ小さい手が聡太の手を握る。それを見て酷くショックを受けた修に、冗談だよと聡太から離れて修のもとへ移った。
「荷物、持つよ」
 余った聡太は拓と陸の、二つある片方の荷物持ちを買って出た。その上に花と照の分までというのは、今回は勘弁してもらいたいと思う。
「ありがとう!」
 久しく耳にしていなかった自分への『ありがとう』に、聡太は目を見開いた。言うことはあれど、よもや言われる側になろうとは。
 胸の奥に広がった温かさに照れくさくなり、いつもの無愛想のままでいられるわけがない。どうにか笑顔を作って、どういたしましてと返すも、実際のその表情ははにかんだ、ぎこちないものだった。自覚しているのか聡太の頬に薄らと赤が差す。なかなか桔平のようにはいかない。
 聞こえるリズミカルな音と、同じく感じる揺れ。電車は久しぶりだ。通学は自転車、休日は出かけることがないため滅多に乗る機会がない。何年ぶりだとか、そういうレベルである。前回乗ったのはいつだったか記憶になかった。
 窓から流れる景色は、車とはまた違って見ていても飽きない。何も考えず無心でいられる気がする。音と揺れを感じながらぼうっと遠くの景色を眺めた。けれど乗り慣れていないせいで、電車が大きく揺れるとうまく足を踏ん張りきれず隣にいた照に何度か体が当たってしまった。聡太が謝るとその度に、平気ですと小さい声で返される。ちらっと見た照の顔は、暑いのか頬に赤みを帯びていた。そして、離れたところで二人の様子をじいっと窺っていた成がにやにやと楽しそうに笑っていたことは、本人しか知らない。

 修の祖父母の家とは、法事などで親戚一同が集まる聡太の祖父母の家と同じくらい広かった。なるほど、これならばたしかに花や聡太を招待しても問題ないだろう。お世話になるからと持ってきた土産を聡太が渡すと、悪いわねえと言って喜んでもらえた。聡太に対する修の祖父母の評価は上々。余程のことをしなければ大した問題も起きずに過ごせるだろう。
「いやー、聡太さんの準備のよさには驚かされましたよ」
 すごいですねと成が感心するので、布美に言われたからだとそれとなく説明した。実際は聡太が元々自分で考えて用意するつもりだったのだが、泊まりの話をしたら手土産を持っていくよう布美にも提案されたのだから嘘は吐いていない。
「あ」
 何かに気付いた聡太の声に、何ですかという成の声は途中で蛙の潰れたようなものに変わる。
「なっちゃんにー……」
「どーん!」
 花や照と一緒にいたはずの拓と陸が急に現れて成に突撃。後ろから衝撃を受けた成は二人の勢いと重みで倒れ、向かい合っていた聡太も見事に巻き込まれる。気の済んだ拓と陸は怒られる前にそそくさと退散していった。堪え切れずにくすくすと笑っている花と照の声が聞こえる。彼女たちも共犯に違いない。
「はあ……。すみません」
「いや、別に」
 たしか以前修の家に行ったときも賑やかだったが、普段からなのかと尋ねたら、今回は一段と気分が上がっているとのことだった。
「今日は聡太さんもいますからね。俺も楽しいです」
 まさかと思った。聡太は一瞬目を見開いてからすぐに元の無表情に戻る。
 一緒にいて楽しいなんて。そんなことあるはずがないのに。
 治久の家はいつも空気が重たかった。暗かった。それは自分が原因であると聡太は自覚していたし、もし自分がいなければもっと明るい家庭なのだろうと幾度となく思ったこともある。何年も同じ家で過ごしたにもかかわらず彼らときちんとまともに話した記憶も、笑った顔を見た覚えもなかった。
 治久と琴子はともかくとしても、従兄の春樹は自分をどう思っていたのだろう。
 それから啓太は……。
 元より大人しい性格なのかもしれないが些か窮屈そうにも見える。
 やはり、早く自立してあの家を出なければという思いが聡太の中で再び強く湧いた。
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