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<成>

 バレンタインが終わって二月も二十日ほど過ぎた頃に、中学生活が残りわずかとなっていた俺は聡太さんに相談を持ちかけられた。なんでも兄貴から俺に話すことがあるそうで、それを兄貴にばれずにどうにか花ちゃんにも聞かせたいとのこと。こんな変てこなお願いをすることになったのは、隠し事をしていた聡太さんが詰め寄った花ちゃんに根負けして吐かされたためらしい。さすがは花ちゃん、やっるねえ。
 というわけで、学校から聡太さんと兄貴の後をこっそりつけてきた花ちゃんを、話し始める前に部屋の襖を挟んだ向こう側に立たせて兄貴の話を最初から最後までみんな聞かせた。惜しむことなく聞かせた。改まって話をしようとする兄貴はきっと多少不自然な動きをしたところで気付く余裕なんてないだろうと思っていたら、案の定、見事にドッキリ大成功状態に持ち込めた。さすがは兄貴。
 俺は聡太さんからの依頼を100%達成したと思うよ。だから、俺は今ファミレスで報酬のパフェに舌鼓を打っている真っ最中。うまい。
「いいの?」
「何がですか?」
 向かいで紅茶を飲んでいる聡太さんが不意に聞いてきた。パフェを食べている俺の手が止まる。聡太さんも持っていたカップを置いた。
 聡太さんが言っているのは兄貴と花ちゃんのことだった。二人が落ち着くまでと部屋に置いて俺は聡太さんとファミレスに来ているから、花ちゃんを好きな俺にすればこの状況はあまり都合がよくないのではないか、と。
「君たち兄弟みんなと仲がいいのは知ってる。でも、あの二人はまた特別だよね。僕でもわかるよ」
「……そうですねえ」
 たしかにおもしろくはない。そりゃ好きな相手が別の野郎と二人で仲良くとか、おもしろくなくない奴のほうが少数派だろう。
 とはいえ、だ。
「まあ、いつかはくっ付くんじゃないですかね、あの二人」
 他の奴らならあの手この手で妨害することもあるけど、こと兄貴に関してはもし花ちゃんと付き合うなんてことになったとしても、俺が悔しさを覚えることもまたないと断言できる。どうしてと言われれば、それはずっと花ちゃんを好きでいつつも兄貴と花ちゃんの仲を見てきたから。たぶん聡太さんが言ったように、兄貴と花ちゃんの間には俺たちとは違う、俺たちよりも特別な『何か』があって、俺が一人で入っていく余地なんて全く存在しなかった。花ちゃんのことを好きだと思うと同時に叶わないって諦めもしていた。
 俺の言葉に聡太さんは酷く驚いていた。本当にそれでいいのって顔してる。
 だって聡太さん、俺、正直なところあの二人に、早くくっ付けばいいのにって、じれったいって思ってるんですよ。花ちゃんと付き合いたいとか、実は一回も願ったことないんですよ。笑っちゃうでしょ。
 好きなのに変なのって自分でも思う。
「あ、でも、くっ付く前には一騒動くらい起こってもらわないと若干俺の気が治まらないですね」
 さらっと言うと、聡太さんは困ったふうに笑いながら、ほどほどにねと言った。
 終わった話題を変えるべく、俺は聡太さんに何かいいアルバイトがないかと聞いてみた。
「そういえば、高校受かったんだったね。おめでとう」
「おかげさまで。ありがとうございます」
 推薦入試で一足早く受験が終わった俺は、高校卒業後の一人暮らし資金だとか、自分のお小遣いくらい自分で稼ごうとか、何かに理由を付けて進学してからアルバイトを始めようと思っていた。それらしい理由を並べてみて、でも、いまいちどれもしっくりこないのが謎だった。意欲はあるのに理由が見つからない。
 ……あれ? 何で働きたいと思ったんだっけ?
 俺の相談に考えるように唸っていた聡太さんは、そうだと思い出したように俺に確認し始めた。
「僕のほうでも探すのを手伝うことはできるけど、たしか今年は兄弟で二人も受験生を抱えるよね」
「兄貴と照」
「うん。で、君もアルバイトをするとして、そうしたら下の二人は誰が面倒を見ればいいのかな」
 あ、と口からこぼれる。俺としたことが完全に失念していた。
「僕も、シフトを山のように入れていたこともあって、啓太――あ、従弟がね、『また行くの?』って不満そうに言うんだ」
 今まさに脳裏に浮かんでいるらしい光景に苦く笑いながら話す聡太さんは、普段の君なら気付いていそうなのにねと俺に言った。
 その通りだ。恥ずかしさで俺の顔が熱くなってきた。
「そういうところを見ると、やっぱり君たちは兄弟だなって思うよ」
 そっか。知らずに兄貴と似たようなことをしようとしていたのか、俺は。そんなつもりはなかったのに。
 ふふっ、と自分に笑った。少し情けないことになったけど、一方でもやもやっとしていたのがスッと晴れた気分だ。うん、たぶん、そうだ。花ちゃんのことだって。
 『恋愛ごと』というよりは、『家族』として好きな部分が強いんだろう。
 そう思うと妙に腑に落ちた。あー、やっぱ変なの。
 聡太さんは、長期休暇で働けるような短期のアルバイトならつてを当たって探してみるよと約束してくれた。

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