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<啓太>

「ただいまー!」
 言ってから、あれ? と僕は首を傾げた。いつもならすぐに聞こえるお母さんの『おかえり』が返ってこない。それに、すごく静かだ。
 とりあえず、いつも通り靴を脱いで手を洗ってから、お母さんがいそうなリビングを見てみる。
 いない。
 台所にもお母さんの姿はなかった。お風呂もトイレも客間も、全部見たけどどこにもいなかった。お母さんの靴はちゃんと玄関に置いてある。出かけてはいないはずなのに。
 一階にいないなら二階かな。
 とんとんとんと階段を上がると、やっとお母さんを見つけた。でも、変なの。おぼんに飲み物とお菓子を乗せて、お母さんがいるのはお兄ちゃんの部屋の前。何してるんだろう。
「お母さん?」
 声をかけると、しーっと口の前に人差し指を立てられた。そばまで寄って小さな声で、何してるのと聞くと、お兄ちゃんがお友達を連れてきたのだとお母さんが言った。そういえば、玄関に知らない人の靴があった。おぼんに乗っている飲み物もお菓子も二人分きちんと用意されている。
「持って入らないの?」
「そうなんだけど……なんだかお邪魔かなあって」
 ふうん、とお母さんに返して、ドアの向こうからお兄ちゃんの声がしたから、気になった僕は耳を傾けてみた。あ、そっか、お母さんも気になってたんだ。だって、お兄ちゃんが誰かを連れてくるなんて初めてだもん。
「……え?」
 お兄ちゃんが珍しくいっぱいしゃべってる、とか、そういうのじゃなくて。お兄ちゃんが話している内容に僕はびっくりしてお母さんを見た。気が付いたお母さんは、啓太には話してなかったねと言って、リビングに下りてからお兄ちゃんのことを話してくれた。
「お兄ちゃん、お父さんもお母さんもいなかったの……?」
 お兄ちゃんが僕の家に来てからもう少しで一年になる今になって初めて知ったこと。今まで、なんでお兄ちゃんはうちに来たんだろうと不思議がったことはあったけど、最初の頃はどうせすぐにいなくなると思っていたし、お兄ちゃんと仲良くなってからはそれまでの分もお兄ちゃんといっぱい遊びたくて頭になかった。思い出せば、お母さんが夏には毎年黒い服を着て同じところにお出かけしていた。もしかしたら、お兄ちゃんのお父さんとお母さんのお墓に行っていたのかな。お葬式とか、黒い服を着るって誰かに聞いたことがある。
「じゃあ、お兄ちゃん、ずっと一人なの?」
 お兄ちゃんのお父さんとお母さんが死んだのは、お兄ちゃんが僕と同じ年の頃らしい。僕が今、お父さんもお母さんもいなくなってしまったらどうだろう。僕はどうなるんだろう。
 考えているととても悲しくなってきて、涙が出てきた僕にお母さんは、大丈夫と頭を撫でてくれた。
「聡太くんがここにいて、啓太が聡太くんのこと大好きって思っていれば聡太くんは一人じゃないよ。聡太くんはもう一人じゃない。だから大丈夫」
 本当? と聞くと、お母さんは何回も頷いて返してくれた。
「そうだ、啓太。今度聡太くんにぎゅうって抱き締めてあげたら?」
 こうやって、とお母さんが僕をぎゅうっとした。なんだか安心して、でもおかしくて、声を上げて笑う頃には僕の涙はすっかり止まっていた。

 お邪魔しました、と部屋から出てきたお兄ちゃんのお友達はたくちゃんのお兄ちゃんだった。僕もお兄ちゃんと一緒に手を振って見送ったあと、お兄ちゃんを見て僕はぎゅうって抱きついてみた。いきなりでびっくりしたお兄ちゃんが僕の名前を呼んだので、あのねとお兄ちゃんに話す。
「お兄ちゃん、僕のこと好き? 僕はね、お兄ちゃんのこと大好きだから、お兄ちゃんも僕のこと好きなら家族なんだって!」
 ……って、言ってた気がする。あれ? 違ったっけ?
 まあ、いっか、ともう一回お兄ちゃんを見ると、お兄ちゃんが目をパッと開いて僕を見ていた。なんだか泣いてしまいそうな顔をしていて、心配で声をかけようとしたらお兄ちゃんにぎゅううっと強い力で抱き締められた。
「……ありがとう」
 小さく声が聞こえて僕の頭にポタッとしずくが落ちた。顔を上げたら、泣いているけど笑ってもいるお兄ちゃんの顔が見えた。

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