×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
<利也>
その日は珍しく、帰りを迎えてくれる布美の姿がなかった。おや、と不思議に思い声が聞こえるリビングへ顔を出すと、あまり雰囲気のよくない彼女と聡太くんが向かい合って立っていた。
「――それは、ちょっと君が感情的過ぎたかなって僕は思うよ」
経緯を聞いた僕は、ことの発端となった進路調査書にサインし、休んでいいよと聡太くんを部屋へ戻らせた。お茶を飲んで一息吐き、次第に冷静になってきた布美は、わたしもそう思う……と後悔しながら呟く。僕も、今日ばかりは早く帰ってくるべきだったと情けない気持ちが湧いてきた。とはいえ、どうしようもなかったことを悔いたところで仕方がない。
「君が一番引っかかったのは何?」
要点を整理しようと切り出した僕の問いに、布美はポツリポツリで話し始めた。
「……聡太くん、『自立する』って言ったの。そのために就職を選んだような言い方で。今だって十分にやっているのに……」
小山さんから聞いた話だと、聡太くんは高校にも行きたがらずに中卒で就職しようと考えていたらしい。慌てた小山さんがどうにか高校には進学させたのだと言っていた。
小山さんの話と春からの聡太くんの様子から、どうにも彼は生き急いでいるように見える。その先に目指す何かがあるのならそれもいいのかなとも思うけど、ただ闇雲に進んでいるようだった。後ろからつつかれて急かされるように、前へ、前へと。かといって、幼い頃、両親が三十代で突然亡くなってしまった聡太くんに、急がなくてもゆっくりで大丈夫なんて、布美も僕も、とても簡単には口にできなかった。
布美としては、最初に比べれば柔らかくなったものの、いまだ遠慮が前面に出ている聡太くんに、たぶん、甘えてほしいんだろうなあ。そう確認したら、彼女は縦の肯定した返事をくれた。
それから、義姉夫婦が自慢げに語っていた聡太くんの夢を実現するために進学してほしい気持ちが一つ。
でも、聡太くんが自分で決めたことを真っ向から否定したくない気持ちも一つ。
全部が頭でごちゃごちゃになった結果、今回聡太くんとの言い合いになってしまった、と。
「今日は布美が一方的に話していたみたいだから、まずは聡太くんの考えを確認しないとね。お義姉さんたちが話していたのは、まだ聡太くんが啓太くらいの年頃の話だから今は違うのかもしれない。もしお金のこととか、僕たちがどうにかできることで引っかかっているのなら、そのときは進学してほしいって君の気持ちを伝えればいいんじゃないかな」
「……押し付けがましくないかしら」
不安で俯く布美に、僕は笑って言った。
「そんなことないよ。聡太くんに進学したいって気持ちがあってそれで進学してほしいって伝えるのは、『進学しなさい』っていう無理強いじゃなくて『進学していいんだよ』っていう後押しなんだから」
それに、君が今日言ったことのほうがよっぽど押し付けがましいって。
そう言ったら、気にしてるのに……と布美はムスッとして僕を見つめたけど、次には安心したように笑っていた。
「ごめんなさい。今日は出迎えも何もできなくて」
「僕のほうこそ、大事な話のときにいられなくてごめん。今度は君だけにしないで僕もいるよ。だから、そのときは呼んでほしい」
「ええ、そうするわ」
すっきりした、と言うその顔も雰囲気も、もうすっかりいつもの布美に戻っていた。
その日は珍しく、帰りを迎えてくれる布美の姿がなかった。おや、と不思議に思い声が聞こえるリビングへ顔を出すと、あまり雰囲気のよくない彼女と聡太くんが向かい合って立っていた。
「――それは、ちょっと君が感情的過ぎたかなって僕は思うよ」
経緯を聞いた僕は、ことの発端となった進路調査書にサインし、休んでいいよと聡太くんを部屋へ戻らせた。お茶を飲んで一息吐き、次第に冷静になってきた布美は、わたしもそう思う……と後悔しながら呟く。僕も、今日ばかりは早く帰ってくるべきだったと情けない気持ちが湧いてきた。とはいえ、どうしようもなかったことを悔いたところで仕方がない。
「君が一番引っかかったのは何?」
要点を整理しようと切り出した僕の問いに、布美はポツリポツリで話し始めた。
「……聡太くん、『自立する』って言ったの。そのために就職を選んだような言い方で。今だって十分にやっているのに……」
小山さんから聞いた話だと、聡太くんは高校にも行きたがらずに中卒で就職しようと考えていたらしい。慌てた小山さんがどうにか高校には進学させたのだと言っていた。
小山さんの話と春からの聡太くんの様子から、どうにも彼は生き急いでいるように見える。その先に目指す何かがあるのならそれもいいのかなとも思うけど、ただ闇雲に進んでいるようだった。後ろからつつかれて急かされるように、前へ、前へと。かといって、幼い頃、両親が三十代で突然亡くなってしまった聡太くんに、急がなくてもゆっくりで大丈夫なんて、布美も僕も、とても簡単には口にできなかった。
布美としては、最初に比べれば柔らかくなったものの、いまだ遠慮が前面に出ている聡太くんに、たぶん、甘えてほしいんだろうなあ。そう確認したら、彼女は縦の肯定した返事をくれた。
それから、義姉夫婦が自慢げに語っていた聡太くんの夢を実現するために進学してほしい気持ちが一つ。
でも、聡太くんが自分で決めたことを真っ向から否定したくない気持ちも一つ。
全部が頭でごちゃごちゃになった結果、今回聡太くんとの言い合いになってしまった、と。
「今日は布美が一方的に話していたみたいだから、まずは聡太くんの考えを確認しないとね。お義姉さんたちが話していたのは、まだ聡太くんが啓太くらいの年頃の話だから今は違うのかもしれない。もしお金のこととか、僕たちがどうにかできることで引っかかっているのなら、そのときは進学してほしいって君の気持ちを伝えればいいんじゃないかな」
「……押し付けがましくないかしら」
不安で俯く布美に、僕は笑って言った。
「そんなことないよ。聡太くんに進学したいって気持ちがあってそれで進学してほしいって伝えるのは、『進学しなさい』っていう無理強いじゃなくて『進学していいんだよ』っていう後押しなんだから」
それに、君が今日言ったことのほうがよっぽど押し付けがましいって。
そう言ったら、気にしてるのに……と布美はムスッとして僕を見つめたけど、次には安心したように笑っていた。
「ごめんなさい。今日は出迎えも何もできなくて」
「僕のほうこそ、大事な話のときにいられなくてごめん。今度は君だけにしないで僕もいるよ。だから、そのときは呼んでほしい」
「ええ、そうするわ」
すっきりした、と言うその顔も雰囲気も、もうすっかりいつもの布美に戻っていた。
PR
この記事にコメントする
・・――サイト案内――・・
日記・イラスト・小説を更新していくブログです
HNの表記は、ひらがなでも、カタカナでも、漢字でも、アルファベットでも何でもよいです
ほのぼの・ほっこりした小説を目指してます
絵に関してはイラストというより落書きが多いかも…
と、とにもかくにも、ポジティブなのかネガティブなのかわからないtsubakiがお送りします
最新記事
(06/29)
(06/10)
(05/25)
(05/10)
(04/06)
リンク
プロフィール
HN:
tsubaki
性別:
女性
自己紹介:
ものごとを『おもしろい』か『おもしろくない』かで分けてる“へなちょこりん”です
外ではA型、家ではB型と言われます(*本当はB型)
家族に言わせれば『しゃべりだすとおもしろい』らしい
寒天と柑橘が大好きです^^
外ではA型、家ではB型と言われます(*本当はB型)
家族に言わせれば『しゃべりだすとおもしろい』らしい
寒天と柑橘が大好きです^^
フリーエリア
ブログ内検索
アクセス解析