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松崎と書かれた表札。ここが聡太の居候先だ。自転車を置き家に入る。パタパタとスリッパで走る音が聞こえたと思ったら聡太の叔母、松崎布美が顔を出した。
「おかえりなさい」
何も言わずに軽く頭を下げ、聡太は階段を上がっていく。
ただいまと言っていないのに。玄関の戸も割と静かに開けて閉めた。それなのに、その小さな戸の音を聞いてわざわざ出迎えてくれたというのだろうか。学校から戻る度に思うことだった。
二階には布美の息子である啓太の部屋が一つと広い寝室に納戸その他、そして不思議と空き部屋も一つある。その空き部屋が聡太の部屋として用意されていた。客間用の和室は一階に別にある。ほとんど使用された形跡のない空き部屋には座卓とタンスが置かれている。聡太も特に何かを動かしていないため、新たに聡太が持って来た荷物が増えた以外はそのままの状態だ。まるで聡太を迎えることを前提として造られたような家だと感じずにはいられない。
「はあ……」
鞄を置き、聡太の口からため息がこぼれる。布美の家に来てからというもの尽く予想外の出来事にあってきていると言ってもいい。そのため聡太の疲労も半端ではなかった。誰も見ていないので床に大の字で寝転ぶ。天井が高く広く感じた。
何かと世話を焼きたがる布美。前の家の伯母とは大違いだ。
――この疫病神!
ああ。そんなことも言われたっけ。思い出すと耳の奥でずっと響き続ける。伯母の悲痛な叫び。自分にぴったりだと聡太は思った。だからこそ余計に考えてしまう。
自分はここにいるべきではないのでは、と。
布美と啓太は隣り合って座っていて、聡太は啓太の向かいだ。聡太の隣は空いている。この家の主人である利也はまだ帰宅していなかった。聡太の目の前で二人が楽しそうに話している。向かいに座っているせいか時々啓太は聡太をちらっと見る。そして目が合うと驚いたようにすぐ目を逸らしてしまうのだが、聡太はたいして気にしてはいなかった。また、布美は困ったように笑っていた。
食卓には布美の作った夕食が並ぶ。スープにハンバーグ、付け合わせとは別にサラダもあった。はじめは口に合うか心配していた布美だが、心配するまでもなくおいしかった。料理とは作った人の人柄を表すのだろうか。この夕食にしろ少し冷めた弁当にしろ、どれももれなく温かい。だとするならば、自分が作ると冷たくて重いものになるのだろうか。聡太は内心で苦笑した。
布美と啓太の様子を見ながらゆっくり箸を進める。以前の癖もあり早く席を離れようと速く食べていたのだが、布美はみんなで一緒に食べたいらしくて周りに合わせるようになった。最後にならないように、けれど速過ぎないように食べる。家で口にするご飯に味があるとは驚いたものだった。
もう少しで食べ終わる。そんなとき玄関の鍵の開く音がした。音を拾った布美は箸を置き玄関に急ぐ。啓太は座ったままだったが顔はドアを向いていた。待ちきれないという顔をしている。そして利也が顔を出すと、おかえりなさいと言って目一杯抱きついた。
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