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「そーうーたーさん」
 声のするほうへ顔を向けると成がいた。聡太の着ているものも彼の着ているものも詰め襟だったから、呼ばれなければ気付かずにそのまま行ってしまっていたかもしれない。
 これからバイトかと聞かれ首を横に振れば、じゃあ一緒に帰りましょうと言って成は聡太の横に並ぶ。
「そういえば、花ちゃんに告白したそうですね」
「……悪いことをしたとは思ってる」
 あのあと、修と二人で花にアイスを奢ったのだ。彼女の頬に若干の赤みが残っていて、しょうがないなあと許しを得た。買収したわけではない。あくまで詫びだ。そしてそれからは何もなかったかのようにこれまでと変わらず過ごしている。
 成が笑った。
「いや、大方兄貴が余計なことしたんでしょ。疎いのにお節介して」
 どうやらいつものことらしい。聡太は意外だと思わなかった。むしろ聡太が今まで見てきたままだった。
「だいたい失敗して終わるんですよ。でも止めない」
 頑固というか、一途というか。もう性分なんでしょうね。
 決して馬鹿にしているわけではない。もちろんその言葉に呆れは読み取れるけれど、それよりも、自慢しているように、誇っているように聞こえた。これが自分の兄なんだぞ、と。話している成の顔は優しい。この一場面だけ切り取って見れば修が弟で成のほうが兄だと思ってしまいそうだ。
 少しの間を持って、
「だからみんな、兄貴のことを『兄』って呼ぶんだ」
 そうだ。
 改めて考えてみれば、弟妹から兄と呼ばれているのは唯一修だけである。成や拓が兄と呼ばれることも、照が姉と呼ばれることも一度としてなかった。彼らは愛称で呼ばれている。
 聡太に話すだけでなく、自分の中での問いに対する答えのようにも聞こえた。
 ああ。実は、修はすごい奴なのかもしれない。
「まあ、あんなですけど」
 この一言で、つい先程まで大きく感じていた修の、兄としての威厳がきれいさっぱりとなくなってしまうところも含めて彼なのだろう。はは、と笑いがこぼれた。
「でも残念だなあ。聡太さんとはライバルだと思っていたんだけど」
 おや、と思った。花とのことだ。聞けば夏休みの宣戦布告もその勘違いをしてとのことだったという。
「告白とか、しないの?」
「そうですねえ」
 成が花に対して淡い恋愛感情を抱いたのはいつだったか。気付いたら好きになっていた。もしかしたら一目惚れだったかもしれない。一方で、互いに家族のように思っているところがあり、姉と弟という関係に心地よさを感じてもいる。今の立ち位置を崩してしまうには、成にとって少なからず勇気と覚悟の必要なことだった。
「今は、このままで十分かな。それにたぶん……」
 彼としてはずっと言わずに気持ちが消えるのをただ待っているつもりなど毛頭ないけれど、いつかそのときが来るまで、今はまだいいのだ。
 含みのある言い方だが、聡太はこれ以上何も言うつもりはなかった。修の二の轍を踏むことになってしまいそうだったから、そう、と一言だけ返した。
「ああ、そうだ」
 成は思い出したように切り出し聡太の目をじいっと見ると、
「照に同じようなことして泣かせたら、さすがの聡太さんでも許しませんから」
「え? ああ、うん……?」
 そんな予定は全くないのだけれど。
 あまりにも成の目が真剣なものだったから聡太は若干怯んでしまった。よくわからないまま、それでもなんとか返事をする。果たして成の納得するものであったのかはわからないけれど、彼がいつもの顔に戻ったということは、おそらくはそういうことであるのだと聡太は落ち着かせることにした。
「そうそう、聡太さん。勉強を見てくれませんか?」
 ついでに夕飯も一緒に。
 気付けばもう目の前には宮守と書かれた表札の家で。どうしようかと一瞬悩みはしたものの、先程の件で何やら弱みを握られた気がしないでもないので受けることにした。
 そのあと帰ってきた修と花に、自分たちが誘ったときには来ないのにと怒られ、いじけられてしまった。
「次は来るから。……たぶん」
「うわーん! 小山くんのばかー!」
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