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<聡太>

「笑え」
 と。そう桔平さんに言われた。
 その頃は生傷が絶えなかった。それは伯父さんの家でというよりも、学校で作ってくる傷のほうがずっと多かった。
「変な奴」
「根暗」
 と。そう言われることが多かった。
 あまりに傷が多いから、いぶかしげに聞いてきた桔平さんに普段の学校でのことを話すと、少し引き気味な顔をして呆れて言った。
「笑えねえ奴なんて、うちでは働かせねえぞ」
 ちょうど、高校生になったら桔平さんのところでアルバイトがしたいと話していた時期に言われた台詞。アルバイト先なんて探せばそれなりに数があるだろうけど、当時唯一の居場所である桔平さんの家の店から追い出されるかもしれないというのは僕にとって最大の恐怖で、桔平さんのところにいられるよう必死に笑顔の練習をした。はじめの頃、口角を上げるために桔平さんが力一杯つまみ上げた頬の痛みを僕は忘れない。
 結果、全く引きつらずに笑顔を『作れる』ようになったのは小学校を卒業する何ヶ月か前くらいで、高学年になった頃から実践も兼ねて見せのお手伝いもさせてもらっていた。
 中学校に上がると別の小学校からの人間も増え、桔平さんからの指示によって僕は『笑って』学生生活を送った。今までの努力が功を奏したのか、生傷が新たに増えるようなことはなく、周りもそれなりに人が集まっていた。それまでとは違った風景だった。何を考えてそうしろと言ったのかはわからないけど、学校での様子を聞かせると桔平さんはとても喜んで笑ってくれた。
 そのまま卒業までいくかと誰もが思っていた矢先のことだった。
 笑顔を『取り繕った』というだけで中身は全く変わらないままの僕は、友達付き合いというコミュニケーション方法、というよりもそのものがわからず、ついにぼろが出てしまった。その瞬間、僕と彼らとの繋がりはプツリと、何も残らずに消えてしまった。桔平さんに正直に話すと、そっかと頭をポンポン叩くだけだった。
 不思議だったのはその後も変わらず傷が増えなかったこと。ただ、小学生の頃とは打って変わり、直接『言葉』をかけられることがなくなった。僕の周りには奇妙な沈黙の空間が生まれた。

 叫んだ後、自分で作り出した独特の空気。僕に話しかける人なんているはずもなく、ひそひそと時折聞こえる声にジトリと湿った視線。
 そう。僕はこの『静寂』を知っている。

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