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<桔平>

「おかえり」
 と。俺があいつに言うことも、あいつが俺に言うことも、もうないんだろうなあ。
 未成年で、十六歳で、高校生で。幼いばかりに何もできないと思っているのかもしれないが、甘いな。世の中には中学を出て働いている人間もいるというのに。
 まあ、かく言う俺も大学まで出て働いているだけにあまり偉そうなことを言えはしないが。
 それはそうと本題に戻り。働き口を探そうと思えばあるのだ。そう、例えば、
「聡太くん、うちで働いてくれればいいのに。ねえ、あなた」
「……そうだな」
 うち、とかだな。
 聡太は、仕事の覚えは早いし手際もいいし、更には俺に代わるもう一人の息子といった感じで、大変お袋のお気に入りであった。それなりに長い間世話を焼いて可愛がっていただけに、聡太が引っ越してしまったことを今でも残念がっている。
「聡太くんがうちの子だったらよかったのにねえ」
 そして実の息子はというと、うちの店とは違う仕事に就いてしまったがために、家に帰れば嫌味にしか聞こえないお袋の台詞を毎回聞かされるのだ。
 そのくらい聡太はうちに馴染んでいて、それこそ血は繋がっていないが家族のようなものだったと思う。
「それも、いいかもしれないですねえ」
 これは、俺が一度だけうちへ誘ったときの返事だ。その目も、顔も、声色も。全部、上辺だけの本心でないということしか語っていなかった。それが俺に通用するとでも思ったのだろうか。一体何年一緒にいると思ってんだ、おまえは。全く、その笑い方だって誰が教えたと……。
 とにかくあっさり振られたわけで。断り方とこれまでのあいつを見るに、たとえ就職浪人になろうがうちには絶対来ない。何か変わっただとか、余程のことがない限りは、ない。
 聡太はどうやら仕事とプライベートをきっちり分けたいようだ。仕事やその職場に和やかさや親しみやすさといったアットホームな雰囲気を求めていない。むしろ対極にある、厳しさや機械的であることを望んでいる。あくまで俺の勝手な推測ではあるが大筋間違っていないと言い切ってもいい。あいつにとっての仕事とは、自分が生きていく上での単なる手段に過ぎないのだ。
 本当に、大概捻くれていやがる。
 さて。俺は俺の仕事でもするとしよう。
 ケーキ用の箱に選んだ三つのプティガトーを入れた。保冷剤も忘れない。代金はちゃんと払っておいた。
「ちょっと、桔平。商品持ってどこに行くのよ」
「早朝宅配サービスでーす」
 お袋の声を背に、開店までには戻ると言い残して店を出た。見上げた空は青く広い。世界はこんなにも広いというのに。
 これ以上見るものなんてない。
 と。強ちあいつが言っていないではないような台詞を、自分で浮かべて口元が引きつり言葉を失う。
「……あー。くっそ腹立つ」
 と言いつつも。俺は割と穏やかに笑っていた。
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