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 あたしにとって、修くんはヒーローでした。
 修くんがいなかったら今のあたしはいないのです。

 あたしは両親を知りません。名前も、顔も、何もかも。あたしにとっての親は園長で、お家はその園で、一緒に住んでいるみんなは友達で家族でした。
 みんなにとっての普通はあたしにはわかりませんでした。だから、あたしにとっての普通はみんなの言う『普通』の枠からはみ出てしまうのかもしれません。だって、お父さんもお母さんも、そんな概念はあたしの中にはなかったのです。
 困ることなんてありませんでした。たとえあたしを取り巻く環境が『普通でない』としても、いつも園のみんなが一緒にいたから、違和感なんて気になりませんでした。
 いつも、いつも。毎日が楽しかったです。
「えへへ。今日は何しよっか?」
 そんな園での暮らしが一変したのは、あたしが小学校の真ん中くらいになった頃でした。あたしに里親の話が来たのです。正直なことを言ってしまえばそのときの生活に不満はなくて、むしろ大好きだったのですが、みんながあたし以上に里親の話を喜んでくれたのでその話を受けることにしました。里親にと申し出てくれた夫婦はとてもいい人たちで、元々とてもにいい話でもあったのです。
 そして、園での生活に少し名残惜しくも期待しながら始まった生活は想像していたものとは違っていました。何が違うって、同じような境遇の園のみんながいないのです。それが、今まで感じていなかった周りとの違和感を強く感じさせることになりました。
 新しい町でのあたしは日を追うごとに表情がなくなっていきました。決して愛想がいいと言えないあたしが転校先で上手くやっていけるはずがなく、度々いじめにも遭いました。
「帰りたいなあ……」
 みんながいるあの園が恋しくて、恋しくて。もう殻にこもってしまいそうな、そんな中、手を差し伸べてくれたのが、当時同じクラスだった修くんでした。
「うちに来いよ!」
 半ば強引に連れて行かれた修くんの家には、弟の成くんと妹の照ちゃんがいました。拓くんはまだ赤ちゃんで、陸くんなんか産まれる前の、おばちゃんのお腹の中です。
 それはそれは楽しい時間でした。久しぶりに感じた楽しい時間でした。楽しい時間は園での日々を思い出させて、目からは涙がこぼれました。でも、園のみんなに会いに行くことはできませんでした。だって、こんな自分を見せるわけにはいきません。そのときはぐっと堪えて我慢しました。
 それからは修くんと一緒にいる時間も、修くんの家に遊びに行くことも増えました。成くんや照ちゃんとも仲良くなりました。段々、段々と時間を重ねるごとに、あたしの顔に明るさが戻ってきました。すると不思議なことに、いつの間にかクラスに溶け込めるようにもなり、いじめられることがさっぱりとなくなったのです。
 そうして充実した時間が増えると今まで見えなかったものが見えてくるようになりました。今暮らしているお家です。修くんの家に比べると暗く感じました。わかっています。原因はあたしなのです。
「ごめんなさい」
 その日、初めて二人のことをきちんと『お父さん』『お母さん』と呼んだような気がします。三人で泣きました。泣いたら、内にあったもやもやがすっかり晴れてなくなって、世界がまた一変しました。一緒に暮らしている二人が初めて『親』になって、今暮らしているお家が初めて『家』になって、あたしたちは初めて『家族』になりました。
 次の日、修くんにありがとうと言うと、
「何のこと?」
 と、ケロリとした様子で返されました。そのとき、すごいなあと思ったけど、そのまま返すのがちょっぴり癪だったから、
「何でもなーいよー」
 べー、と舌を出してやりました。

 今思えば、あれは本当に計っていない素の返事だったのだろうけれど、自覚のない相手にこれ以上お礼を言えるわけがありません。
 だから決めました。
 あたしはお姫さまとか、ヒロインになることはできません。彼に助けられたその一に過ぎません。
 だから決めました。
 それならば、せめてそばにいられるように修くんのお手伝いをしようと。
 小山くんにお節介を焼きたがるのは、きっとそういうことなのだろうと思います。
 例えば、修くんがホームズなら、あたしがワトソンだったり。……いーや、残念ながらホームズは小山くんや成くんのほうが決まっていそうです。えへへ。ごめんね、修くん。
 何はともあれ。あたしが今のあたしであるのは修くんのおかげなのです。
 あたしにとって、修くんはヒーローでした。それは今も変わりません。
 そしてこれからも、修くんはあたしのヒーローであり続けることには違いありません。それだけは何があっても、きっと変わらないことです。
 あたしはずっと、その隣に並んでいたいと思うのです。
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