忍者ブログ
[528]  [527]  [526]  [525]  [524]  [523]  [522]  [521]  [520]  [519]  [518
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

<桔平>

 聡太を最初に見つけたのは、実を言うと俺ではない。
「桔平くーん」
 呼ばれて向かった先は常連のお客さんの席。追加の注文かと思いきや他の用があるようで、彼女たちが顔を向けたほうへ自分も向くと、シャッターの閉まった向かいの店の軒下に小学生が一人、雨宿りをしているのに気が付く。知り合いの子供かと尋ねれば、どうやらそうではないらしい。
「あの子、わたしたちが店に入る前からいたんだけど、それからもずっといるし、誰かが迎えに来る様子もないから、その、気になって」
 たしかに、と、頷いていると、ね、と言われたので首を傾げる。
「だから桔平くん、あの子、何とかしてあげてくれない?」
 このままだと風邪引いちゃうわ、と。
 これは面倒なことを頼まれてしまった。それに、『何とか』と言われても、一体何をすればいいのやら……。
 ついでにと受けた追加の注文を伝えに親父のいる厨房へ行き、どうするかと相談した。すると、悩むでもなく間髪入れずに、
「おまえが何とかして来い」
 と、問題を突き返され、次いでお袋のところへも行ったが同じくといった対応をとられた。困っているから相談しに行ったというのに。返ってくる言葉をわかってはいたが、こともあろうに丸投げとは、本当に息子に協力する気なしだな、あの夫婦。
 とはいえ、任された手前、『何とか』はしなければならない。正直、億劫なことこの上ないが、ため息を吐いてから渋々ながらも傘を手に取った。
 ――と、いうのが、実際の裏側の話だ。
 現在はちょうど昼時の客の多い時間帯が過ぎるかというところ。そういえば、先週はこのくらいの時間だったなと思い窓の外を意識していると、控えめにドアが開いた。ドアの鐘もあまり響かない。そろりと窺うように入ってきたそいつはそのまま辺りをキョロキョロと見渡し、俺を見つけると不安そうだった顔から一転して、ぱあっと笑顔を見せた。
「お兄ちゃん!」
「本当にまた来たんだな、聡太」
 先に気付いた俺から聡太のほうへ寄っていく。俺の言葉が気になったのか、来ちゃダメだった? と顔色を見てくるので、そうじゃないとすかさず訂正した。始めて会ったときにも感じたが、少しは言葉を選ばなければならないようだ。
 奥の空いている席へ案内してジュースを運んでやると、いいの? と何度も聞いてくる。果てに、いらないなら俺が飲むぞと言ったらようやく飲み始めた。
「そのくらいしか出してやれないから、それで我慢な」
 ケーキを出してやってもいいのだが、事前に説明しておいたスタッフはともかく他の客の目があるから、機会を見てまた今度にしよう。苦手なものとかも、あったら聞いておいたほうがいいかもしれない。
「おいしい」
「そりゃよかった」
 そろそろ仕事に戻らねば親父とお袋から揃って拳骨の一発や二発もらってしまいそうだ。
 ゆっくり飲めよ、と言って戻った俺は、しかしその後すぐに常連のお客さんを見かけて聡太のいる席まで逆戻りすることとなった。例の常連さんだ。彼女たちの席へ、わけのわからないままの聡太を連れていった。すると、彼女たちも聡太のことに気付いたようで、
「もしかして、あのときの子?」
 と、聡太をまじまじと見つめた。彼女たちが聡太を見つけたのだと説明する。
「ほら、お姉さんたちにお礼言っとけ」
「……あ、ありがとう、ございました……」
 初対面の人間には苦手意識が強いのか、体の半分以上を俺の後ろに隠してしまい、ありがとうも尻すぼみになってしまう。お礼はちゃんと言えと聡太を引っ張り出そうとする俺に、いいよと彼女たちは笑っていた。
「あのあと風邪引かなかった?」
 かけられた質問には何度も頷いて返す。口はどうしたと若干睨みを利かせると、おずおずとではあるものの、元気ですと何とか言葉にした。その言動に彼女たちからは、桔平くん怖ーいと言われてしまった。
「このお兄ちゃんにいじめられたらお姉さんたちに言うのよ」
「店長さんたちにお兄ちゃん、怒ってもらうから」
 え、今のも? と聞くと、頷いて返して愉快そうに笑い、俺は、まじか……と手で額を押さえた。
 聡太と彼女たちは互いに顔と名前を覚え、後々彼女たちは聡太を目当てに店を訪れるようになったのだった。

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
・・――サイト案内――・・
                                日記・イラスト・小説を更新していくブログです                               HNの表記は、ひらがなでも、カタカナでも、漢字でも、アルファベットでも何でもよいです                                ほのぼの・ほっこりした小説を目指してます                                 絵に関してはイラストというより落書きが多いかも…                                                      と、とにもかくにも、ポジティブなのかネガティブなのかわからないtsubakiがお送りします
最新コメント
[04/08 つねさん]
[12/10 クレスチアン」]
[03/18 りーん]
[09/30 弥生]
[08/08 クレスチアン]
ポチッと押してみようか
blogram投票ボタン
プロフィール
HN:
tsubaki
性別:
女性
自己紹介:
ものごとを『おもしろい』か『おもしろくない』かで分けてる“へなちょこりん”です
外ではA型、家ではB型と言われます(*本当はB型)
家族に言わせれば『しゃべりだすとおもしろい』らしい
寒天と柑橘が大好きです^^
フリーエリア
ブログ内検索
バーコード
アクセス解析
忍者ブログ [PR]
Template designed by YURI