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<成>

 今、我が家では珍しい光景が見られていた。
 兄貴と花ちゃんが勉強している。定期テストの度に必ずと言っていいほど一つは赤点を取ってくる、勉強の苦手で嫌いなあの二人が、である。一体いつ以来だろうか。記憶している限りでは高校受験の直前が、必死に勉強をしている二人を見た最後だったような気がする。
 そして今、何故そんなに二人が勉強に燃えているのかというと、
「いいか、花? 今年もいっぱい遊ぶぞ!」
「おー!」
「今年は小山も連れていくぞ!」
「おー!」
「そのためには赤点回避は絶対だぞ!」
「合点だー!」
 と、いうことらしい。『連れていく』ということは、なるほど、じいさんの家に一緒に泊まるということか。行き帰りは電車だし、これは、照のためにというか自分のためにというか、色々できそうだ。
 まあ、泊まりについての計画はさて置いて、ちなみに今日は、明日からテスト本番という直前も直前。実は二人がこうして一緒に勉強するのは、この度のテスト期間で今日が初めてだった。何といってもあの兄貴と花ちゃんだ。お世辞にも勉強ができるとは言えない、むしろ、言い方がきついかもしれないが、全くと言っていいほどできない馬鹿な二人が集まったところで効率も何もあったものではない。
「成くん、この単語どう読むの?」
「花ちゃん、辞書」
「成、この感じって」
「兄貴も辞書、引けよ」
 本当、一つどころか二つ下の俺に聞いてくるあたり、たとえ馬鹿と言っても怒られないと思う。一応進むことは進んでいるのだが、二人では進度が亀でもまだ遅いくらいに鈍足も鈍足だった。というか、二人とも、今日はテスト前日だっていうのにそこからなの……。
 そんな二人も頭を使ったようで、昨日までの数日はお互い友達を頼ってそれぞれに勉強していたという。その数日で集めた情報を持ち寄り、最終日に二人で追い込みをしているというわけであった。内容や進捗はどうであれ、兄貴と花ちゃんがまともに勉強しているという時点で褒めていいのかもしれない。なんとハードルの低いことか。しかし、それで現に母さんは感動している。一方で照は珍しさのあまり気味悪がり、拓と陸は大変に面白がっていた。
 残る俺の反応は、呆れ果てる、だ。せっかく友達と勉強していたのなら、何故そのまま最終日まで一緒にやらないのか。効率の点で考えればそっちのほうがずっといいに決まっているのに。
 それでも、やっぱり、最後にはここに落ち着いちゃうんだよねえ、二人とも。花ちゃんのことはちらほら好きという野郎がいたけど、そんなだから二人はいつまでも彼氏も彼女もできないんだって。このままでもできる唯一の可能性もなくはないけど。
 少しにやにやしながら勉強している兄貴と花ちゃんを見つめる。自分に向く視線に気付いた二人が同時に、何? と聞いてきた。それに俺は笑って、何でもないと返したのだった。
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