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 聡太は週末に修を呼び出した。無理にでも引っ張り出すつもりでいたが、修は警戒心を丸出しにしながらもなんとか応じて二人で近所の公園にいる。
「……おまえは、話さないな、自分のこと」
 それぞれが公園に置かれた、少し年季の入ったベンチの両端。男同士がくっついて座るのもなかなか珍しいものだろうが、今のこの距離は二人の心の隔たりをそのまま表しているように見えた。見えない壁が二人の間に存在しているのだと、そうとしか思えなかった。
 聡太は前を向いたまま。修も前を向いたまま。二人の視線が交わることはなく、長い沈黙を聡太が破っても修は口を開こうとはしなかった。いつもならばよく回るその舌は、今日は少しも動いていない。
「やけに大人しいな」
 返事はない。聡太はあまり自分から話すようなことはないから、だからどうしても破った沈黙が再び戻ってきてしまう。かといって本題を切り出そうにも避けられてしまうのは目に見えているし。本当に、
「らしくない、か?」
 ようやく聞けた声に、けれどその声にいつもの張りはなく、聡太が視線を横にやる。自嘲するように笑う修がいた。
「小山もやっぱりそう言うのか。俺も、そう思うよ。でもさ」
 そこから少しずつ言葉が増えていく。
「俺らしいって何だ? 明るい? お節介? 図々しい? やかましい?」
 ああ、自覚はあったのかと聡太が心の中で呟いた矢先だった。
「……けど、そんなの本当の俺じゃない! ……本当の俺は、もっと、どろどろとしていて暗い……」
 修が声を荒げて叫んだ。やっと聡太に向けた修の顔は怒っているような、苦しそうな、悲しそうな、そんな負の感情がない交ぜに歪んでいた。
 本人の言う通り、今こうして聡太に見せているのが本来の修なのかもしれない。自分の、ビリビリに破かれた進路調査書を聡太から取り返したときに一瞬見せた顔も。内に踏み込もうとした聡太を拒絶したときも。その一片が見て取れた。
 それならば、今となっては見る影もない普段の彼は……。
「演技、みたいなもんだと思う。周りのイメージと自分の理想が合わさったキャラクターというか、何というか……」
 修の言うことは聡太にもわかった。
 理想と現実にギャップがあれば、そしてその差が大きければ大きいほど周囲とトラブルが起こるリスクは高まる。どうやっても完全な一致は無理な話で、いかにトラブルを避けながら素の自分を出していくか、あるいはいかに自分を理想に寄せていくかは当人次第。聡太は理想と現実とを割り切り、そして修は後者を選んだ。どちらが正しいのかなどそういう類の話ではないし、修の選択に異を唱えるつもりは一切ない。
 ただ、一つ聡太がいただけないのは、
「みんなが思っているような俺なんて、全部、嘘っぱちだ……」
 理想の存在の否定だ。
 あの、明るい修はいないのだと彼は言う。もちろん理想は理想に過ぎないのだろう。けれど、たしかにあの修は存在していたというのに。あの修と一緒に過ごした自分たちの時間はたしかに、幻ではなかったというのに。
 堪らず聡太は修の真正面に立ちはだかった。
「それなら、あいつや僕が積み上げてきたものも、全部、嘘だったって言うのか」
 静かに、けれど怒っていた。聡太の目が鋭く修を捉えている。以前に修の前で声を荒げたことがあるがそれとは違う。決して全てが感情的ではない、むしろ冷静で理性的なその雰囲気と言葉にばつが悪くなった修は、それはと濁すも上手く言い返すことができない。目も泳ぐ。
「それだけは、絶対に言わせない」
 態度を崩さず、彼に圧ものを見せるために聡太は、来いと強めに言い、場所を移した。
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