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 希望を伝え、本命と滑り止めを含む志望校がほぼほぼ固まりつつあった聡太の顔は、冬空の下、すっきり晴れ晴れとしていた。白樺には、変わったなと言われた。聡太もまたそう思っている。
 二月半ばに差しかかった学校はなんだか浮き足立っている。その上現在は放課後で、一時間待っていろと言いつけた修と花は聡太を置いてそそくさと帰ってしまうし。仕方がないので課題を片付けることにした。ありがたいことにいつものクラスメートが付き合ってくれていた。
「あーあ、結局今年も一個ももらえなかった!」
 今までなんとか保っていた集中力もいよいよ切れてしまった彼はため息と共に項垂れた。
 もらえなかった? 一体何を?
「でも、もらったらもらったで三倍返しとか聞くよ?」
 慰める友達に、そういうの言わない子からがいいの! とか。そもそももらうことに意味があるの! とか。
 三倍返し? だから、一体何を?
「何の話?」
 話に入れない聡太に、とぼけているように見えたのか、クラスメートが、またまたあと、
「何って今日は……」
 あ、と聡太が声を漏らした。クラスメートの先にある時計がすでに一時間を過ぎたことを告げている。早く帰らなければ。家で啓太が待っているのだ。
 自分から聞いておきながらクラスメートの言葉を遮った聡太が、ごめんと謝ると、じゃあなと言って彼らは教室から去っていくのを見送った。
「……小山はもらってそうだよな、チョコ」
「そうだね」
「え! まじか!」
 こんな会話が繰り広げられていたなど、聡太は知らない。

 学校を出てから角を曲がった先で制服姿の照が聡太の視界に入ってきた。誰かと待ち合わせているふうに見える。
 このまま帰ってしまおうか。
 けれど彼女は聡太の帰る先にいる。彼女と顔見知りではあるし、以前に成から声をかけてもらったこともある。
 意を決して照に声をかけた。それはもう、たどたどしくぎこちない。恥ずかしさのあまり顔に熱が集中してしまいそうだったが、声をかけられた照がそれを上回って驚き頬を赤く染めているのを見て、なんとか冷ますことができた。
「えっと、あの……その、お話が、ある、んですけど」
 なんと、照が待っていたのは聡太だった。ここで聞こうかと尋ねると照はブンブンと首を横に振って、歩きながらでと控えめに答えた。
 ゆっくりと歩いていく。歩幅の大きさも歩く速さも聡太のほうが上で、照のペースに合わせて並んだ。
 そこに会話はなかった。聡太は気を利かせて話しかけるなどということはしなかったし、照は照で黙ったまま俯いて歩いている。こんなとき、修ならばうるさいほどに何かしらペラペラとしゃべるのだろうか。
 学校から大分離れて人もまばらになってきた。ようやく照が聡太の名前を呼んだ。彼女の足が止まったので聡太も止まる。照を向くと、彼女が何か持っていることに初めて気が付いた。
「そ、聡太さん! あの、これ作ったので、よかったら……」
 何、と聞くと、チョコと返ってきた。
 学校のそわそわした空気。もらう、もらわない。チョコ。
 ……そうか。今日はバレンタインデーか。そういえば一週間ほど前に甘いものが好きかとか、具体的にチョコはどうかと花に聞かれていたのだった。
 いいの、と確認すれば、何度も何度も繰り返して頷くので聡太はお礼を言った。誰かから何かをもらうというのはなかなかに嬉しいものだ。
 チョコを渡し終えたあとももじもじしながら何かを伝えようとする照に聡太は首を傾げる。
「……好きです!」
 思わず面食らった。それは告白にではない。まるで苺のように真っ赤にしながら、それでもしっかり聡太の目を見続ける彼女に、だ。
「よかったら、付き合ってもらえれば、嬉しい、ですけど……」
 一度目を逸らすも再び照は聡太と目を合わせ直す。
 以前の聡太なら、相手が彼女であっても素っ気なくあしらったことだろう。けれど、今の聡太は違う。
「……やりたいことが見つかったんだ、やっと」
 夢を見つけて走り出したばかりの聡太には、脇見をしながらなどという器用な真似はきっとできない。
「だから、気持ちだけ、もらうね」
 照は真剣だった。だから視線を外すなんて、それは失礼なことなのだ。
 聡太も真剣だった。けれど、その表情は柔らかかった。
「ありがとう」
 すっと出てきた言葉に、照は涙を瞳に溜めて、それでも笑った。
「ありがとう、ございます」
 瞑った拍子に涙が頬を伝った。
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