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<照>

「で、何をそんなにむくれてるわけ?」
 隠そうともせずに笑いで肩を震わせながら聞いてくるなっちゃんに、あたしは別の意味で肩を震わせながらなっちゃんに向かって叫んだ。
「なっちゃんがしたことと、にやにやしてたこと全部にだよ!」
 もー、馬鹿ー! と肺とかお腹の中にあるありったけの空気を吐き切る勢いで重ねた。原因を知っているはずなのにまるで何も知らないかのようにとぼけて、なっちゃんに弱みを握られたら最後だ。本当に意地が悪い。知っていたけど。
 駅から今この瞬間まで、なっちゃんは、あたしが聡太さんのことで起こす一挙一動を目敏く掴んでは自分の笑いの種に変えている。
 駅でそれぞれみんなが手を繋ぐ中、拓が自然に聡太さんの手を取るのを、あたしは羨ましそうに眺めていた。その様子をあろうことかなっちゃんに見られていたことに、なっちゃんが笑っているのに気付いて初めて気が付いたのだ。その上、手の空いた聡太さんが拓と陸の荷物を持ってあげていると、
「照の分、持ってもらえなくて残念だったねー」
 なんて、からかいながら言われて思わず手に力が入る。我慢した。
 電車の中はみんなが座れるほど席が空いていなくて、拓と陸が花ちゃんを挟むように座り、お兄ちゃんがその前に立つ。二駅過ぎた頃、近くに席が空いたのを見つけて移動したなっちゃんは、その去り際にあたしの肩へと手を置くと、グッと親指を立てた。そんなことをされても困ると、それまで隣に立ってくれていたなっちゃんを引き止めようとするも、
「俺、足が疲れたから」
 とか、ありそうな、でもなさそうな微妙な発言をして、必死の訴えも空しく聡太さんの隣でほぼ二人きりの状態になった。せっかくだからと言ってお兄ちゃんたちとは別のところに立たせたくせに自分だけそっちに戻っちゃって、なっちゃんの馬鹿!
「どうだった?」
 と、電車を降りてからなっちゃんに聞かれて、そんなの、ドキドキしっぱなしでどうのこうのの話じゃなかったよ! と噛み付く勢いで盛大に文句を言ってやった。だって絶対に顔が真っ赤なの見られちゃったよ! なっちゃんにも嫌がらせをしてやる、と心の中で固く決めた。
 着いたおじいちゃんの家で、いつの間にかそばにいたはずの拓と陸の姿が消えていて探していた先、なっちゃんに向かって二人がすごい勢いで突進している場面に出くわした。貴重な、なっちゃんのちょっぴり間抜けな感じが見られて、これだと思ったあたしがなっちゃんにその話をしていたら、
「照?」
 と、笑顔で信じられないくらいの圧をかけられ、その恐怖に、ぶわっと全身から冷や汗が吹き出した。なっちゃんのにっこり笑った顔は怖い、まじで怖い! 自然と、ごめんなさいという謝罪の言葉が出てきました。
 勉強の時間には、聡太さんに教えられているなっちゃんに、あたしは勉強を見てもらっていた。
「羨ましい?」
「……そんなこともないこともないこともない、こともない」
 どっちだよ、と笑うなっちゃんにあたしは頬を膨らませる。だって、なっちゃんに教えられるのもわかりやすいから別に不満はないし、もちろん『聡太さんに教えてもらう』というのは引かれるけれど、それはそれでドキドキして勉強どころじゃなくなる自信しかない。全然はかどらなくなる。だから、曖昧で半分半分。どっちも嘘じゃない。
「照は高校どうするの」
 おまえが通う頃には兄貴も花ちゃんも、聡太さんもいないけど。
 なっちゃんに言われなくたってわかってる。中学生になったときにも時々思っていた。せめてなっちゃんみたいに一つでも歳が上ならば、と。そうしたら中学生活も、高校生活も一緒に送れたのに、と。それはただのないものねだりだけど、あたしがお兄ちゃんたちと一緒に学校に行けたのは小学校だけだ。聡太さんとは一回もない。これからも、ない。それでも、
「……同じところ行く」
 それでも別の高校に進学するつもりはなかった。意地、というのもあるのかもしれないけど、単純に利点があるからだ。例えば、お母さんにとっても知った学校になるから三者面談のときや文化祭も要領を得て楽だろうし、授業や先生のこともお兄ちゃんたちから聞けるし、制服は花ちゃんのをもらえばその分お金が浮くし。ほら、得なことばかりだ。
 それに、お兄ちゃんたちがいなくても、
「なっちゃんがいればそれでいい」
 ほう、と言って、なっちゃんはニヤリと笑った。うん、これは大丈夫なやつだ。
「それは兄として何とも鼻が高いね」
「そういうわけで、高校卒業までよろしく」
「はいはい」
 なんだかこの感じだと拓と陸まで来そうだよね、という話になって、二人で笑っていた。
 ――と、和やかな雰囲気もそこそこに、その後も何やかんやいじられるネタは生まれていき、そして冒頭に戻るのでした。

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