忍者ブログ
[494]  [493]  [492]  [491]  [490]  [489]  [488]  [487]  [486]  [485]  [484
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


 今ではいろんなものが見えるようになりましたよ。
 そう言ったとして、彼は、そりゃよかったなと素っ気なく返すのだろうと容易に想像ができてしまって、聡太は一人笑った。
 新しい部屋。すでに片付けられた荷物は以前よりも少なくなったが、見えない気持ちとして詰まっているものはずっとずっと多い。小さい頃から待ち望んでいた一人暮らしはこれからの期待に溢れる思いの一方で寂しくもあり、非常に複雑だ。
 十八歳。これから大学生。未成年であることに変わりはないけれど、社会で一人で生きていくにはまだ幼いだろうか。体は少し大きくなったかもしれない。この二年での聡太の成長は、外見よりも内面のそれのほうが著しかった。それまで感じていたもどかしさは、もう見る影もないほどにほとんど薄れている。今だったら何でもできそうな気がした。
 例えば、空を飛ぶ……というのは、さすがに冗談ではあるけれど。
 支度を済ませた聡太は外へ。
 きっと彼がいるとすれば今の時間だ。誰を介することもなく、真っ先に彼に会うならこの時間が一番いい。
 散歩がてらというより、むしろついでなのは散歩のほう。周りの景色よりも目的が優先されて、ただひたすら歩いた。まっすぐ、まっすぐまっすぐ。ちょっと曲がって進んでまた曲がって。あとはまっすぐ、まっすぐ。
 あ、いた。
 せっせと花壇に水やりをしている姿が見えて、思わず足が速くなる。ついにはもう走っていた。人通りもまだ少ないこの時間帯には、駆け寄ってくる音や気配をかき消してしまう要素などほとんどない。聡太に気付いて一瞬驚いた顔を見せた彼だが、そばまで寄り切ったときにはフッと笑っていて、
「よう、おかえり」
 聡太も自然と口元に笑みを携えていた。
 もう一度この町で暮らそうと決めたのは、ここにも『家』があるから。あの人たちとも、今度は正面から向き合おうと思ったから。
 そして、こう言うのだ。
「ただいま」
 帰ってきた、この町で。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
・・――サイト案内――・・
                                日記・イラスト・小説を更新していくブログです                               HNの表記は、ひらがなでも、カタカナでも、漢字でも、アルファベットでも何でもよいです                                ほのぼの・ほっこりした小説を目指してます                                 絵に関してはイラストというより落書きが多いかも…                                                      と、とにもかくにも、ポジティブなのかネガティブなのかわからないtsubakiがお送りします
最新コメント
[04/08 つねさん]
[12/10 クレスチアン」]
[03/18 りーん]
[09/30 弥生]
[08/08 クレスチアン]
ポチッと押してみようか
blogram投票ボタン
プロフィール
HN:
tsubaki
性別:
女性
自己紹介:
ものごとを『おもしろい』か『おもしろくない』かで分けてる“へなちょこりん”です
外ではA型、家ではB型と言われます(*本当はB型)
家族に言わせれば『しゃべりだすとおもしろい』らしい
寒天と柑橘が大好きです^^
フリーエリア
ブログ内検索
バーコード
アクセス解析
忍者ブログ [PR]
Template designed by YURI