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 上級生がいなくなって一週間。上着なしで外に出るにはまだ寒い。
「小山、今日の弁当は?」
「自作。いる?」
 交換ならという条件付きで聡太は彼におかずを分けた。
 聡太、修と花以外に三人増えた昼休みの一場面も。布美ではなく時々自分で作る弁当も。その形は、実は秋から見られていたものだった。
「な、今度は五人で食おうぜ」
「えー! あたしだけ仲間外れなの?」
「たまには男同士の付き合いも必要なんだよ。たぶん」
「なーんか、すぐにぶれそうな言い方だな」
「僕は、どっちでもいいけど」
「同じく」
 男子の中に女子は花一人だけ。誰もそれが不思議なことだとは思わないし、花も、他にも女子がいたらなど一言も口にしない。一部を除いて、彼らの間に男子だとか女子とか言う意識よりも、『友達』の大前提がある。ただ、
「あー、わかった! 何かエッチな話するんでしょ!」
 やはりというか、そういうことも時にはあるわけで。花の言葉に二人が吹き出し、一人は冷や汗、一人は苦く笑って、残る一人はピクリとも反応せずに素知らぬ顔で箸を進めていた。
 三人三様ならぬ六人六様。それぞれキャラクターが違うからいつも賑やかだ。修や花と三人だった頃もそれはそれで楽しいものではあったが、今では色々と広がるものがある。
「そういえば、小山は大学に進路変えたんだね」
「お! 進学組が増えたな」
「実は元々進学希望だったとか?」
 事情をほとんど知らない三人は興味津々といったところで、聡太はもぐもぐと口の中のものを飲み込んで少しばかりぐるぐると頭を働かせてみる。
「んー……。そうだったかもしれないし、そうじゃなかったかもしれないし」
 昔の自分が心の奥の奥にまで秘めていたものを今となって知ることは難しい。返事もはっきりとはしないが、聡太が周りに向かってたしかに言えるのは、
「みんなが背中を押してくれたから、だから決め切れた」
 仮に進学したいという望みがあったとしても一人で悶々としているうちは選択肢から排除してしまっていた。それがこうして選択肢として浮かび上がってこられたのは、この場にいる五人はもちろん、いろんな人が言葉や気持ちをくれたから。これまで通り、ただ就職と自立に固執して色のない世界を生き続けていくことは、それはそれでありなのだろうけれど、色に溢れた世界に出てこられてよかったと、今では心底思うのだ。
「……ド直球過ぎるわ!」
「まだ寒いはずなんだけどねえ」
「こっちがはずい……」
「いやあ、参ったねえ。思わず照れちゃったよー」
 純粋で混じり気のない素直な告白に周りは頬を赤らめた。時折撫でる風が心地よく冷たく感じるほどには体が火照って熱かった。
「……みんな、変なんじゃないの」
 けれど、そんなことなど露知らぬ聡太首を傾げると、
「小山のが変! というか、これ、原因おまえだからな!」
「そうなの?」
「そうなの!」
 と、怒られてしまった。ますますわからない聡太の首は倒れたまま。いくら考えても自分の言動にそれらしき原因が見つからず、一頻り思考した末に聡太は首を元に戻した。こいつ、わかってねえなという顔を向けられたが、まあ返す言葉もない。
「……お、俺も!」
 スッと、唐突に手をまっすぐ空へと伸ばした修が、おそらく一番顔を赤くしてプルプル震えていた。当然みんなの注目は修に集まるわけで、複数の視線に埋まりながら、
「俺も、進学、する!」
 修の宣言に一瞬ポカンとしたその場も、するとドッと笑いに包まれた。
「いや、知ってるよ!」
「深刻そうな顔してるから何かと思えば」
「はあ、びっくりしたよ」
 三人に釣られてほっと安心した修も少しずつ笑っていたけれど、聡太は知っている。今の一言を口にするのに彼がどれだけの決心をしたのかを。それをこれから新たに知る者はきっといない。修本人と、聡太と、花と。それから数人。ほんの一握りだけの人が知っている、彼の心の戦い。
 笑っているその顔の赤みはいまだ消えないまま。今頃心臓をバックバクいわせているに違いない。そんな修を聡太はちょいちょいと摘んで引っ張った。
「これで少しは自信になっただろ」
 後ろでこっそり修に耳打ちすると、曖昧だけどたしかに、おうと返ってきた。
 ……のだけど。
「だ、大丈夫かなあ……」
 バクバクした心臓の状態がそのまま表に出てきてしまい、ふにゃりと修の顔が崩れて、それを見た聡太は思わず吹き出す。
「あっはは! ほんっと、締まらないなあ」
 やはり最後はどこか情けなく見える修は、笑い話に落ちが付いているようだ。すごい奴なのかもしれないけどそう見えないところが彼の真にすごいところといったところか。果たして狙ってなのかそうではないのか。
 珍しく声を上げて笑い続ける聡太に周りは目を丸くする。
 不思議がる三人と。嬉しそうに思い切り笑う花と。挙動不審な修と。腹を抱えて笑う聡太。
 偶然通りかかった人は、その光景がとても輝いて見えたのだという。
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