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「足上進です。よろしくお願いします」
にこやかに自己紹介をする少年を、周りと差のない程度に紗和はじっと見つめていた。
中学校に上がり、他の地区から新しく入ってきたクラスメイトはたしかにいた。しかしながら『彼女』は『彼』ではない。それは何の違和感もない、だが、紗和にとってのみ初めて遭遇したイレギュラーだ。
このような理解の範疇から外れた状況に自分が立たされている原因として、彼が何かしら関わっているに違いないと紗和は踏んでいた。考えないわけがなかった。
どうにかして足上進と接触を図らなければならない。
とはいえ、自分以外の人間に『八森紗和らしくない』行動をとっていると思われてしまうのは彼女にとって大変不本意なことである。あくまで『中学校に入学したばかりの八森紗和』として自然な形でことを運びたかった。
例えば、足上進と二人きりで話ができるような場面をつくることができるなら、周りの目に遠慮することもなく真相に近付き、かつ、上手くいけば『元の八森紗和』に戻る策を講じられる。
紗和は逸る気持ちを抑えながら辛抱強く機会を待った。
朝に家を出てから、授業の前後、休み時間、放課後、夕方に家へ帰るまで。ひたすら神経を尖らせてタイミングを窺う紗和の姿は、傍から見れば異様で本末転倒となってしまっていたかもしれない。それほどまでに紗和は元の自分に戻りたかったのだ。
――何が悲しくて大切な人の死という痛みを二度も味わわなければならないのだろうか。
望みが叶ったのは入学して初めての休みを迎える前日、金曜日にある委員会の時間だった。
紗和の務める学級委員は三年生の委員長を含めて各学年に男女一人ずつ。一年生からは紗和と足上進が選ばれていた。人数は少ないが、他の委員会と比べてこの時間にすべき活動はほとんどない。はじめにお互いの紹介と連絡事項の確認が済むと、勝手知ったるというように二年生も三年生も一人、また一人と教室を出ていく。生徒会や他の委員会に顔を出してくるらしい。
気付けば紗和と足上進は二人、教室に取り残されていた。
またとない、これはチャンスだ。
二人きりなら他を気にせず話を聞くことができる。だからこの際、単刀直入に聞こうと、紗和は足上進に迫った。
「あなた、誰なの」
にこやかに自己紹介をする少年を、周りと差のない程度に紗和はじっと見つめていた。
中学校に上がり、他の地区から新しく入ってきたクラスメイトはたしかにいた。しかしながら『彼女』は『彼』ではない。それは何の違和感もない、だが、紗和にとってのみ初めて遭遇したイレギュラーだ。
このような理解の範疇から外れた状況に自分が立たされている原因として、彼が何かしら関わっているに違いないと紗和は踏んでいた。考えないわけがなかった。
どうにかして足上進と接触を図らなければならない。
とはいえ、自分以外の人間に『八森紗和らしくない』行動をとっていると思われてしまうのは彼女にとって大変不本意なことである。あくまで『中学校に入学したばかりの八森紗和』として自然な形でことを運びたかった。
例えば、足上進と二人きりで話ができるような場面をつくることができるなら、周りの目に遠慮することもなく真相に近付き、かつ、上手くいけば『元の八森紗和』に戻る策を講じられる。
紗和は逸る気持ちを抑えながら辛抱強く機会を待った。
朝に家を出てから、授業の前後、休み時間、放課後、夕方に家へ帰るまで。ひたすら神経を尖らせてタイミングを窺う紗和の姿は、傍から見れば異様で本末転倒となってしまっていたかもしれない。それほどまでに紗和は元の自分に戻りたかったのだ。
――何が悲しくて大切な人の死という痛みを二度も味わわなければならないのだろうか。
望みが叶ったのは入学して初めての休みを迎える前日、金曜日にある委員会の時間だった。
紗和の務める学級委員は三年生の委員長を含めて各学年に男女一人ずつ。一年生からは紗和と足上進が選ばれていた。人数は少ないが、他の委員会と比べてこの時間にすべき活動はほとんどない。はじめにお互いの紹介と連絡事項の確認が済むと、勝手知ったるというように二年生も三年生も一人、また一人と教室を出ていく。生徒会や他の委員会に顔を出してくるらしい。
気付けば紗和と足上進は二人、教室に取り残されていた。
またとない、これはチャンスだ。
二人きりなら他を気にせず話を聞くことができる。だからこの際、単刀直入に聞こうと、紗和は足上進に迫った。
「あなた、誰なの」
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少女、八森紗和は大人である。
もう一度言おう。『少女』、八森紗和は『大人』である。
あからさまに矛盾しているその言葉は、何も言い間違えたわけでもなければ、「我には古よりの記憶が……」などといった中二病を患っているわけでもない。八森紗和は間違いなく、そして他の誰でもなく『八森紗和』本人であり、その事実は揺るぎないものだ。
記憶の話をするのであれば、『未来である過去』の情報を彼女は持っている。それは彼女自身が実体験したもので、他所から彼女に植え付けられたものではなかった。
いつ、どこで、誰のもとに生まれたのか。自分の家族構成。通う幼稚園、小学校。友達、先輩、後輩、先生の名前。大きな病気や怪我のタイミング。
生まれてこの方、記憶と大きく差異なく過ごしている。これから起きることも、記憶の続く限りで同じであるに違いない。
つまり、彼女は記憶をそのままに自らの過去に戻ってしまったのだ。
そう。少女、八森紗和は大人だった。
彼女がたしかに『八森紗和』という人生を歩んでいる最中のある一点から、どういうわけかその生まれた始点にて目を覚ました。ふわふわとしたはっきりしない意識のまま時が進み、彼女が完全に覚醒したのは母親の顔を見たときだった。当時のその感覚は非常に気持ち悪いものであった、と彼女は振り返る。幸いと捉えるべきか、彼女の意思と関係なく体は勝手に動き、声も勝手に口から出た。さながら自分の記憶の追体験をしているようだ。便利なもので、基本的に彼女は行動を『八森紗和』に委ねていた。
このまま何事にも無関心でいれば、後に起こるつらく苦しいことも以前ほど感情を揺さぶられずにいられるのだろう。潰れることはないだろう。『動き』始めるのはまだずっと先でいい。紗和はそう思っていた。
しかし、中学に入学してその考えを改めざるを得ない事態が起きる。
「足上進です。みなさんは小学校の頃から一緒ということなので、早くクラスに馴染みたいと思っています。よろしくお願いします」
にこやかに自己紹介をするその少年を、紗和はじっと見つめていた――。
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ものごとを『おもしろい』か『おもしろくない』かで分けてる“へなちょこりん”です
外ではA型、家ではB型と言われます(*本当はB型)
家族に言わせれば『しゃべりだすとおもしろい』らしい
寒天と柑橘が大好きです^^
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